頼りになる大家と、くせ者住人たちとの心温まる関わりを描く、笑って泣ける人情小説。
『三年長屋』梶よう子
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
『三年長屋』著者:梶よう子
『三年長屋』文庫巻末解説
解説
歴史時代小説と、一口に
梶よう子は、東京都出身。音楽・芸能関係のフリーライターを経て、二〇〇五年、「い草の花」で、第十二回九州さが大衆文学賞大賞を受賞。二〇〇八年、「槿花、一朝の夢」で、第十五回松本清張賞を受賞した。そして作品タイトルを『一朝の夢』と改め、同年六月に文藝春秋から単行本を刊行。以後、多数の作品を発表しながら、現在に至っているのである。
初期は時代小説中心の作者だったが、二〇〇九年の第二長篇『みちのく忠臣蔵』で
本書『三年長屋』は、学芸通信社の配信により、二〇一六年六月から一八年四月にかけて、静岡新聞、東海愛知新聞、留萌新聞、南信州新聞、紀南新聞、いわき民報の各紙に連載。大幅な加筆・修正を為して、二〇二〇年二月、KADOKAWAから単行本が刊行された。物語の舞台は、
長屋を舞台とした市井譚は、時代小説の定番のひとつである。さまざまな人間が一ヶ所に集まっている。現代のアパートなどと比べれば、人間関係も密だ。これによりドラマが創りやすいからだろう。しかも本作の場合は、長屋の設定に工夫がある。三年長屋とは奇妙な名称だが〝この長屋に三年ほど暮らした者は、居職の者なら工房と弟子を抱え、棒手振り稼業なら、表店を出し、
そんな三年長屋で、差配と
作者は第一章で、左平次のキャラクターを印象づけながら、長屋の面々を紹介していく。登場人物はかなり多いのだが、読者を混乱させることなく、物語の世界に導く手腕はさすがというしかない。また、ちょっとしたことから長屋を出ることになった
続く第二章は、長屋の新たな住人として、
左平次が長屋に帰っても、騒動は終わらない。第三章では、なぜか盗まれたはずの大八車が戻ってくるが、そこには捨てられた赤ん坊が乗せられていた。赤ん坊の名前は〝みつ〟とのこと。子供のいない長屋の夫婦が引き取ろうとするが、そのことでまたもや市兵衛や鬼嶋と揉めてしまうのである。
以後も、ストーリーは快調に進行。お節介だが、やや石頭である左平次が、奮闘しながら成長していく。また、お梅の厳しい過去や、彼女の下男のようなことをしている
詳しく書く余裕がないが、長屋の住人も個性的で、それぞれの人生を背負っている。母親が長屋を出ていき父親と
「私もここに来たばかりのときは、そう思っていましたよ。けれど、ある者は運を摑み、ある者は大事なことに気づいた。それは、各々が強い思いを持っているからだと私は感じました。
と返答し、心の中で〝願いは
その一方で、不正をしている市兵衛・鬼嶋コンビと、左平次の対立が、しだいに大きな読みどころになっていく。本書の悪役である市兵衛と鬼嶋だが、彼らの言動はムカムカするほど憎たらしい。それだけに左平次だけでなく、長屋の面々まで加わった総力戦に、ワクワクさせられる。物語からフェードアウトしたと思った人物が活用されたり、対決の舞台が凝っていたりと、どんどん話が盛り上がる。痛快な決着に
作品紹介・あらすじ
三年長屋
著者 梶よう子
定価: 946円(本体860円+税)
発売日:2023年02月24日
三年暮らせば夢が叶う!? おせっかい大家と、くせ者住人のほっこり長屋劇
ゆえあって藩を致仕した左平次は、不慮の事故で最愛の娘を失ってしまう。悲しみに暮れる左平次は、訳ありの老女の導きで長屋の大家を始めた。入居したのは、三年暮らせば願いが叶うと噂される山伏町の「三年長屋」だった。はじめは「お武家様」と軽んじられる左平次だったが、持ち前のお節介さを武器に、住人たちとの間に強い絆を築いていく。頼りになる大家と、くせ者住人たちとの心温まる関わりを描く、笑って泣ける人情小説。
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