横溝正史生誕120年記念復刊! 横溝正史の異色傑作!
『真珠塔・獣人魔島』横溝正史
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
※この解説は昭和56年の文庫刊行時に執筆されたものです。
『真珠塔・獣人魔島』横溝正史
『真珠塔・獣人魔島』横溝正史 文庫巻末解説
解説
山村正夫
現代の推理小説は多様化と拡散現象が著しく、さまざまな傾向の作品が書かれるようになっている。本格物、スパイ物、心理サスペンス物、ハードボイルドなど、それぞれのパターンの名称がつけられているが、戦前はそんなことはなかった。本格物と変格物の二通りの作風の分け方しかなかった。
本格物はいうまでもなく、論理性やトリッキイな要素、意外性などを主体にした作風である。それに反して変格物の方は、本格以外のあらゆる作風(SFもふくむ)を網羅した呼び方だったが、現代のように各ジャンルが分化して花を競ったわけではない。妖美性やおどろおどろしさをそなえた、怪奇ロマンの作品が他を圧していた。
その意味での変格物が、戦前の日本の推理小説界の主流であったのである。江戸川乱歩の「
欧米では一九二〇年代に既に本格推理小説の黄金時代を迎えていたが、日本でそうした機運が盛り上がるには、戦後(一九四五年)まで待たなければならなかった。
それは戦前における日本の推理小説(探偵小説)の派生が、欧米とは
ポーやドイルを始めとする外国作品は、明治の末期から大正にかけて
いうなれば日本は日本だけの独自の発展を遂げ、怪奇探偵小説全盛の時代が昭和三十年頃まで延々と続いたのである。その風潮は大人向けの小説だけにはとどまらず、年少の読者を対象にしたジュヴナイルでは特に
乱歩の「少年探偵団」や「怪人二十面相」「妖怪博士」などが、続々と生み出されたのは、そのような背景を考えてこそ、はじめて納得がいくのではないだろうか。だが、それらのジュニア物の小説が読者に熱狂的に受け入れられ、一世を
私自身にもかつて
戦前は乱歩と海野十三がジュヴナイルの人気作家の双璧だったが、戦後は多くの作家が競って怪奇探偵小説に筆を染めた。その中でも、もっとも作品量の多かったのが横溝先生である。
中島河太郎氏が作成した目録を参考にすると、長編だけでも次のようなものがある。
「怪獣男爵」(昭和23年)「幽霊鉄仮面」(昭和24年)「夜光怪人」(同『
それにしても数が多い。
「青銅の魔人」 江戸川乱歩
「怪獣男爵」 横溝正史
「死神博士」 高木彬光
「黄金孔雀」 島田一男
「蜃気楼博士」 都筑道夫
本書には横溝先生が昭和二十九年から三十年にかけて連載された「真珠塔」と「獣人魔島」の二編が収めてある。どちらも新日報記者三津木俊助と
「真珠塔」は、その進少年が「この春、中学を出て、新日報社へ入ったばかりの給仕」となっており、中学生のときに手柄をたてた「幽霊鉄仮面」や「夜光怪人」の事件の続編ということになりそうだ。新聞社へ入社したのは、いろいろ不思議な事件にぶつかることができると思ったからだが、いまのところ上役にお茶を汲んで出したり、手紙の整理をしたり、そんなことばかりやらされるので不服でたまらない。そんな矢先にぶつかったのが、金コウモリの怪事件というわけである。
金コウモリとは、翼から鬼火のような光を放つ無気味なコウモリのことで、どくろの仮面をつけた黒衣の怪人が現れるたびに、それが十匹近くも夜空を
進がその金コウモリに出会い、ミュージカルの女王
横溝先生には暗号文を扱った作品がいくつかあるが、大人向きの作品では、「蝶々殺人事件」がもっともポピュラーだろう。これは楽譜が利用されていて、先生が生んだ名探偵の一人、
ジュヴナイルでも、この手法はしばしば使われている。「大迷宮」には悪人一味に捕われた
また暗号ではないが、人名をアナグラムに仕組んだ作品も何編かある。
金コウモリの怪人は
一方、「獣人魔島」の方は、横溝先生が戦後はじめて書き下ろされた「怪獣男爵」とやや趣きが似ている。脳の移植手術の研究をしている有名な医学者
獣人魔に変身し、
そのどんでん返しが鮮やかで、読者の意表を
ロマンの夢は昔もいまも変りはない。怪奇探偵小説の魅力は、いつの時代になっても色
作品紹介・あらすじ
真珠塔・獣人魔島
著者 横溝 正史
定価: 880円(本体800円+税)
発売日:2022年11月22日
横溝正史生誕120年記念復刊! 横溝正史の異色傑作!
翼から鬼火のような青白い光を放ち、夜空に舞う無気味な金色のコウモリ。探偵小僧の御子柴進少年は、金コウモリが自動車の中から銃を発砲し、女性を殺害する現場を目撃した。三津木俊助とともに事件の調査を行う進少年のもとに、催眠術を駆使する金コウモリの魔の手が迫る……(「真珠塔」)。刑務所を脱走した悪党を追いかけた先で、脳の移植手術が秘密裏に研究されている骸骨島を見つける進少年の冒険劇「獣人魔島」を併録。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322205000266/
amazonページはこちら