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レビュー

赤川作品のマジック――『三世代探偵団 生命の旗がはためくとき』赤川次郎 文庫巻末解説【解説:中江有里】

巻き込まれたのは裏社会の抗争!? 女三世代が大活躍の新シリーズ第3弾!
『三世代探偵団 生命の旗がはためくとき』赤川次郎 文庫巻末解説【解説:中江有里】

角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開! 
本選びにお役立てください。

三世代探偵団 生命の旗がはためくとき』赤川次郎



『三世代探偵団 生命の旗がはためくとき』赤川次郎 文庫巻末解説

解説
なか   

 あかがわろうさんは、私が読書に目覚めた小学生の時に出会った「小説の神様」だ。今も書店で「あ」の棚にその名を見つけると、ホッと安心する。
 初めてお目にかかったのは、赤川さん原作の『ふたり』がおおばやしのぶひこ監督により映画化された際。撮影現場の広島県おのみち市の高校の教室だった。ある日スタッフから赤川さんがいらっしゃると聞いて、私はセリフが飛ぶのが心配になるくらい(幸い飛ばずにすんだ)緊張した。なんたってホンモノの赤川次郎さんが来るのだから(ニセモノがいるという意味ではなく)。
 それから約二十年後、当時レギュラー出演をしていたNHKBS「週刊ブックレビュー」という番組で赤川さんをゲストとしてお招きすることになった。映画現場で会ったきり、端役の自分のことなど忘れていて当然……と思っていたのに、赤川さんは覚えておられた。その上『ふたり』の現場で撮った集合写真まで持ってきてくださった!
「なんだ、自慢か」とページを閉じないでください。あんまりうれしかったので……そんなエピソードはさておき、この度の文庫解説を書くにあたって、赤川さんと初めて会った頃の自分をいやおうなしに思い出した。なぜなら映画出演当時の私は十六歳。その上『三世代探偵団』のあまもとと同じ名前。一読して、
(これはもしかして……私!)
 全国の「有里」を代表し、勘違いしたことをお許しください。
 すぐに冷静になった。残念ながら私は天本有里のように活発でもないし、鋭い推理もできない。一ファンとして、赤川作品のマジックにハマっただけだろう(マジックについては後ほど触れたい)。
 改めて本シリーズについて短く説くと、天才画家である祖母のさち、その娘であるシングルマザーのふみ、幸代の孫でしっかりものの有里の「三世代探偵団」によるミステリ。シリーズ三作目の本作は有里の友人であるなががあるトラブルに巻き込まれるところから始まる。
 シリーズ一作目の『次の扉にむ死神』でも有里の友人であるどころの恋と殺人、というエピソードがあったが、有里の周囲では事件が頻繁に起きる。平成の一時期、ほぼ毎日民放各局で放映された二時間ドラマの舞台となった京都で事件が起きたように(実際の京都でしょっちゅう殺人が起きるわけがないが)千年の古都並みに、有里は事件を引き寄せる。
 本作の登場人物はてんこ盛り、人間関係は複雑に交差する。ジェットコースターのごとくスピーディーかつスリリングに登場人物をつなぐ糸は絡まり続け、一見何の関係もなさそうな人物が思いがけない糸でつながっていくのが面白く、話が進行するにしたがって絡まった糸がスルスルとほどけていくのに快感を覚える。
 令奈の姉・が駆け落ちした相手・おおさきゆうは、美樹、令奈姉妹の父と同じ牧師だ。その裕次は自分の父の家業を嫌って一度は家を出ているが、妻となった美樹を実家へと連れ帰る。やがて夫の家業を知った美樹は、父親からDVを受けているもとと知り合い、二人して姿を消してしまう。
 また前途多難な恋も描かれる。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』をほう彿ふつさせる裕次の妹・かおりばやしろう。中にはW不倫もあるし「相手にふさわしくない」と自ら身を引く恋もある。
 恋愛は善悪の判断をゆがませるほど強力な力が働く。愛によって人は道を踏み外し、愛のために人は自己犠牲を選ぶ。おきやま学園の事務長・ようひろ姉弟きようだいはかつて道を誤りかけたが、ギリギリのところで踏みとどまり、現在はまじめに働く市民となっている。先に記した城所真奈も禁断の恋から危険に身をさらしたが、元の高校生活に戻ることができた。
 このように失敗を経て立ち直る人は幸せだ。痛い目に遭っているからこそ、再び同じような過ちは犯さないはず。
 悪へと転がってしまって戻れない人もいる。赤川作品では人の善悪がはっきりと描かれるが、多くの犯人たちは名誉や金欲、ふくしゆう心に踊らされた末に犯罪に走ってしまう。身勝手ではあるけどそれなりの動機がある(個人的には動機らしい動機がない犯罪が一番恐ろしい)。つまり根っからの悪人ではなく、人間臭くて情けない人たちなのだ。
 一方で家族愛、親子愛という愛は物語の深いところで水脈のように横断している。
 犯罪が多発してもハートウォーミングな読み心地になるのは、この深い愛のせいだろう。
 有里は祖母や母に愛されて健やかに育ってきたことは言わずもがな、クレバーで親しみやすいキャラゆえ友達だけでなく誰とも良い関係を築ける。刑事のむらかみとは恋愛未満の微妙(?)な関係だが、事件を前にすれば強力なバディとなる。
 幸代のラスボス感も頼もしい。何があっても幸代がすべて包み込んで、事件解決へと導いてくれそう。
 ところで本作での文乃は、これまでの二作とイメージが少し違った。マイペースな天然キャラで、幸代と有里の間にいると影が薄く感じられる……いや、こちらの見方が少々浅すぎた。
 物語終盤、ある大きな戦いがぼつぱつしそうになる。幸代と有里がお互いの役割を確認しあっている時、文乃はこう叫ぶのだ。
「みんな、勝手なことばっかり言って! 一体、お母さんも有里も、いつから秘密情報部員になったの? 撃ち合いだの殺し合いだの、どうしてそんなことが好きなの? うちはマフィアでもみずのちよう一家でもないんです! ごく普通の家庭なの!」
 自ら「家庭的な人間」という文乃の声は、一市民の声でもある。
 幸代も有里も、本当に戦いたいわけではないだろうが、現状に対応するために戦闘態勢を取ろうとしている。戦いの幕は待ってくれないし、いつたん始まれば個人で止められない。それが戦い=戦争というもの。
 ミステリには多少の血なまぐささはつきもの。しかしすべての人が好戦的ではない。そもそも小説は現実をモデルにしていて、フィクションならではのデフォルメは、物語世界の土台となる真実がなければ成立しない。実際、世界のどこかで戦いは起き続けている。戦いの犠牲になるのは文乃のような一市民……深読みかもしれないが、そんな風に感じた。

 ところで、冒頭で赤川作品の「マジック」と記したが、赤川作品は疑似世界の主人公になれるのがだいご味。ページを開けば、物語の登場人物のひとりとなれる。
 その上、本シリーズほど「わたしとく」なものはない。どこを開いても十六歳の有里が生き生きと輝いているのだから! 若かりし自分(似ても似つかぬが)を思い出しながら、娘を持ったような気分にもなる。なんだか気恥ずかしくもあり嬉しくもあり……。
 現実の自分は文乃の年を超えてしまったが、幸代の年齢まではまだ時間がある。小説のよいところは登場人物が年を取らないところだ。いつか幸代と同世代になった時に改めて本シリーズを読み返したい。シリーズとしては最新刊『三世代探偵団 春風にめざめて』もあるし、これから何度も十六歳の有里に再会できるのだ。
 全国の「有里」を代表し、勝手に赤川さんにはお礼を申し上げます。

作品紹介・あらすじ



三世代探偵団 生命の旗がはためくとき
著者 赤川 次郎
定価: 792円(本体720円+税)
発売日:2022年09月21日

巻き込まれたのは裏社会の抗争!? 女三世代が大活躍の新シリーズ第3弾!
女子高生の令奈は通学途中、ふと覗き込んだ車中で男が刺殺されているのを発見する。なぜかその男は、駆け落ちして姿を消した姉・美樹の名前が書かれたメモを持っていた。姉の身に何かあったのかと心配する令奈。一方で、美樹は駆け落ちした婚約者が裏組織の息子であることを知ってしまい、口封じのため命を狙われていた。さらに組織はあることをきっかけに、対立相手と武力闘争を起こそうとしていて……。天才画家の祖母、マイペースな母と暮らす娘の有里。友人の家族が巻き込まれた抗争に、三世代が立ち向かう!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322203001796/
amazonページはこちら


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