巻き込まれたのは裏社会の抗争!? 女三世代が大活躍の新シリーズ第3弾!
『三世代探偵団 生命の旗がはためくとき』赤川次郎 文庫巻末解説【解説:中江有里】
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
『三世代探偵団 生命の旗がはためくとき』赤川次郎
『三世代探偵団 生命の旗がはためくとき』赤川次郎 文庫巻末解説
解説
初めてお目にかかったのは、赤川さん原作の『ふたり』が
それから約二十年後、当時レギュラー出演をしていたNHKBS「週刊ブックレビュー」という番組で赤川さんをゲストとしてお招きすることになった。映画現場で会ったきり、端役の自分のことなど忘れていて当然……と思っていたのに、赤川さんは覚えておられた。その上『ふたり』の現場で撮った集合写真まで持ってきてくださった!
「なんだ、自慢か」とページを閉じないでください。あんまり
(これはもしかして……私!)
全国の「有里」を代表し、勘違いしたことをお許しください。
すぐに冷静になった。残念ながら私は天本有里のように活発でもないし、鋭い推理もできない。一ファンとして、赤川作品のマジックにハマっただけだろう(マジックについては後ほど触れたい)。
改めて本シリーズについて短く説くと、天才画家である祖母の
シリーズ一作目の『次の扉に
本作の登場人物はてんこ盛り、人間関係は複雑に交差する。ジェットコースターのごとくスピーディーかつスリリングに登場人物をつなぐ糸は絡まり続け、一見何の関係もなさそうな人物が思いがけない糸でつながっていくのが面白く、話が進行するにしたがって絡まった糸がスルスルとほどけていくのに快感を覚える。
令奈の姉・
また前途多難な恋も描かれる。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を
恋愛は善悪の判断をゆがませるほど強力な力が働く。愛によって人は道を踏み外し、愛のために人は自己犠牲を選ぶ。
このように失敗を経て立ち直る人は幸せだ。痛い目に遭っているからこそ、再び同じような過ちは犯さないはず。
悪へと転がってしまって戻れない人もいる。赤川作品では人の善悪がはっきりと描かれるが、多くの犯人たちは名誉や金欲、
一方で家族愛、親子愛という愛は物語の深いところで水脈のように横断している。
犯罪が多発してもハートウォーミングな読み心地になるのは、この深い愛のせいだろう。
有里は祖母や母に愛されて健やかに育ってきたことは言わずもがな、クレバーで親しみやすいキャラゆえ友達だけでなく誰とも良い関係を築ける。刑事の
幸代のラスボス感も頼もしい。何があっても幸代がすべて包み込んで、事件解決へと導いてくれそう。
ところで本作での文乃は、これまでの二作とイメージが少し違った。マイペースな天然キャラで、幸代と有里の間にいると影が薄く感じられる……いや、こちらの見方が少々浅すぎた。
物語終盤、ある大きな戦いが
「みんな、勝手なことばっかり言って! 一体、お母さんも有里も、いつから秘密情報部員になったの? 撃ち合いだの殺し合いだの、どうしてそんなことが好きなの? うちはマフィアでも
自ら「家庭的な人間」という文乃の声は、一市民の声でもある。
幸代も有里も、本当に戦いたいわけではないだろうが、現状に対応するために戦闘態勢を取ろうとしている。戦いの幕は待ってくれないし、
ミステリには多少の血なまぐささはつきもの。しかしすべての人が好戦的ではない。そもそも小説は現実をモデルにしていて、フィクションならではのデフォルメは、物語世界の土台となる真実がなければ成立しない。実際、世界のどこかで戦いは起き続けている。戦いの犠牲になるのは文乃のような一市民……深読みかもしれないが、そんな風に感じた。
ところで、冒頭で赤川作品の「マジック」と記したが、赤川作品は疑似世界の主人公になれるのがだいご味。ページを開けば、物語の登場人物のひとりとなれる。
その上、本シリーズほど「
現実の自分は文乃の年を超えてしまったが、幸代の年齢まではまだ時間がある。小説のよいところは登場人物が年を取らないところだ。いつか幸代と同世代になった時に改めて本シリーズを読み返したい。シリーズとしては最新刊『三世代探偵団 春風にめざめて』もあるし、これから何度も十六歳の有里に再会できるのだ。
全国の「有里」を代表し、勝手に赤川さんにはお礼を申し上げます。
作品紹介・あらすじ
三世代探偵団 生命の旗がはためくとき
著者 赤川 次郎
定価: 792円(本体720円+税)
発売日:2022年09月21日
巻き込まれたのは裏社会の抗争!? 女三世代が大活躍の新シリーズ第3弾!
女子高生の令奈は通学途中、ふと覗き込んだ車中で男が刺殺されているのを発見する。なぜかその男は、駆け落ちして姿を消した姉・美樹の名前が書かれたメモを持っていた。姉の身に何かあったのかと心配する令奈。一方で、美樹は駆け落ちした婚約者が裏組織の息子であることを知ってしまい、口封じのため命を狙われていた。さらに組織はあることをきっかけに、対立相手と武力闘争を起こそうとしていて……。天才画家の祖母、マイペースな母と暮らす娘の有里。友人の家族が巻き込まれた抗争に、三世代が立ち向かう!
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