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レビュー

女三世代が映画撮影現場で巻き込まれた怪事件とは。新シリーズ第2弾!――赤川次郎『三世代探偵団 枯れた花のワルツ』文庫巻末解説

角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開! 
本選びにお役立てください。

赤川次郎『三世代探偵団 枯れた花のワルツ



赤川次郎『三世代探偵団 枯れた花のワルツ』 文庫巻末解説

解説
いけざわ はる 

 これぞまさしくあかがわろう
 軽妙でしやだつ、恐ろしくテンポが良くて、山盛りの登場人物に入り組んだプロットなのに、すらすらぐいぐい読めちゃう。当たり前の顔をして実はすっごいことをさらりとやってのける……そうだ、赤川作品はこうだった、とうん年、もしかしたら十云年ぶりの感触をしみじみとみしめました。

【赤川作品は、単純計算で全世界の4%が読んでいる。日本国民で言うなら、一人3冊ずつ。】
 こうとうけいな数字のようですが、実はちゃんと裏付けがあります。2015年の新聞インタビューに、「著作の累計発行部数は3億3000万部を超えている」とあったのです。2015年時点でこの数字だから、今はもっと増えているはずだけど、とりあえず世界と日本の人口で割ってみた結果が【全世界の約4%と、全日本国民約3冊ずつ】。年齢関係なく頭割りしただけなので、実際はもっとすごい割合になるはず。
 もちろんわたしもその中の一人です。一人、と言うか、日本国民としては、五~六人分くらい担当しているかもしれない。
 小学生の頃夢中で読んだ「三毛猫ホームズ」シリーズ、コバルトから出ていた「吸血鬼」シリーズ、初めてブラック赤川を読んで震え上がった『白い雨』、『死者の学園祭』『ふたり』……600冊以上ある著作、きっとこの本を読んでいる皆様にも、これぞというお気に入りの1冊があるはず。
 これだけたくさんの人をきつけて止まない赤川作品、その最大の魅力は何か。もちろん無類に読みやすい文体や、ポップな会話、ぐいぐいページをめくらせるスピーディーな展開、いろいろあるでしょうが、一番は純化された共感性にあるんじゃないかと思うのです。

 まずは前作、『三世代探偵団 次の扉に棲む死神』を読んでいない、もしくは少し時間がたって忘れちゃった、という人のためにも、簡単な振り返りを。
 物語の中心となるのは、あまもと家の三人、天才画家の祖母・さち、のほほんとした母親のふみ、そしてちゃきちゃき元気の良い高校生の。とある舞台に出演していた有里と文乃、だが上演中に女優が殺されてしまう。文乃の代役を務めていたその女優は、もしかして文乃と間違われて殺されたのか。怪しい動きをしている有里の父親(つまり文乃の元夫)に、有里の学園の不審なお金の流れ。不純な愛憎、裏でうごめく反社会的組織、欲得いっぱいの関係、入り組んだ人間模様とどんどん起こる新たな事件……天本家の周りはトラブルの観光名所なのか、次から次へと押し寄せてきます。
 人も死ぬし、けっこう悲惨な目にあう人もいる。だけど、切れ者でかっこいい幸代、おっとりとぼけた文乃、頭の回転が早くて度胸もある有里、この三人のお陰で、壮快なテンポでお話は進んでいきます。
 今作でも、それは変わらず。今度の舞台は、映画の撮影現場。往年の大女優を中心に繰り広げられる殺人に、大人のあれやこれやな色恋、お金にまつわるトラブル。およそこの世にある全ての問題の類型がぎゅっと濃縮されたよう。前作にも増して、ページを捲る毎に増えていく登場人物と入り組んだお話の筋。にもかかわらず、ぐいぐい読めてしまうのは、先ほど大事なポイントとして挙げた「純化された共感性」、つまり登場人物ひとりひとりに感情移入できちゃうことなんじゃないでしょうか。

 わたしは役者なので、前作や今作に出てくるお芝居のあれこれや、同じ役者の振る舞いや気持ちは自分事として理解ができます。
 でもそれだけではなく、本来だったら全然立場が違うはずの人物にだって共感できちゃう。ちょっとした出会いに心ときめかせ、振り回される自分をちようしながらもつい今までとは違って見える世界に惹かれる文乃。退屈な日常に舞い込んだ思わぬ冒険にのめり込むでらのり。不安と孤独から、つい近くにあった温かい手を取ってしまったふたり。何なら、己の才能と運が枯渇して、もう人生の下り坂にあることを認めたくないあまり、自分自身から目を背け続けるあの人も。なんとなくわかっちゃう。もちろんわかりたくない、わからない、いやぁな人たちもいます。でも、赤川作品に出てくる登場人物たちは、それぞれ、わたしたち読み手の心の中にある、小さな欠片かけらを持っている。だからこそ、一人一人に共感して、ハラハラドキドキしながらページを捲る手を止められないのかもしれません。
 優れたトリック、社会の病巣を鋭くえぐる筆、魅力的なキャラクター、作家にはいろいろな武器があります。けれども、赤川さんの一番の持ち味は、人を描く際の優しく温かく、時に厳しいまなしにあるのではないでしょうか。世にこれだけの本があり、たくさんの作家がいても、唯一無二として愛され続ける。三世代も四世代も超えて、変わらず読まれる作品の秘密は、誰の心にも届く、高い共感性にこそあるのかもしれません。
 十云年ぶりの赤川作品には、懐かしさと同時に、新しい発見もありました。それはもしかしてわたしが少しだけ大人になって、心の中にいろいろな共感の欠片が増えたからかも。だとしたら、今から10年後20年後に読む赤川作品は、より多くの視点、より多彩な登場人物の欠片で、物語を彩ってくれるでしょう。読む毎に、経験を重ねる毎に共感が増えていく。ライトでカジュアルに読めるように見えて、ワインのようにエイジングの楽しみがある、それが赤川作品。
 ちなみに、わたしが現時点で一番好きなのは、もちろん幸代さんです。こんなクールで切れ味鋭いおばあちゃんにいつかなりたい。

 この三世代探偵団、続きがございます。だってまだ気になるあれこれが残っていません?
 有里の親友、ながれいが殺人事件に巻き込まれてしまう『三世代探偵団 生命の旗がはためくとき』。もしかしたらシリーズ一、過激かも。
 そして2021年5月に連載が終了したばかりの「三世代探偵団4 春風にめざめて」は、今作でクランク・アップした映画〈影の円舞曲〉のプレミア上映が舞台。
 まだまだ、天本家の日々はにぎやかそうです。

作品紹介



三世代探偵団 枯れた花のワルツ
著者 赤川 次郎
定価: 792円(本体720円+税)
発売日:2021年12月21日

女三世代が映画撮影現場で巻き込まれた怪事件とは。新シリーズ第2弾!
天才画家の祖母、生活力皆無な母と暮らす女子高生の有里。祖母が壁画を手がけた病院で、有里は大女優・沢柳布子に出会う。彼女の映画撮影に関わるうち、3人はまたもや事件に巻き込まれ――。ユーモアミステリ第二弾。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322101000254/
amazonページはこちら


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