角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
赤川次郎『三世代探偵団 次の扉に棲む死神』
赤川次郎『三世代探偵団 次の扉に棲む死神』 文庫巻末解説
解説
その後の活躍ぶりは多くの人の知るところで、デビュー四〇周年に当たる二〇一六年には長篇『東京零年』で第五〇回吉川英治文学賞も受賞、著作数は今や六〇〇冊を超えているが、創作意欲が衰えるどころか古希を過ぎても健筆は勢いを失っていない。
本書『三世代探偵団 次の扉に棲む死神』はそんな著者が二〇一七年、映画のスクリプター(記録係)の女性が撮影現場で殺人事件に巻き込まれる『キネマの天使 レンズの奥の殺人者』とともに新たに発進させたシリーズの第一作である。
『キネマの天使』が映画界を背景にした話なら、本書は演劇のエピソード(といっても、名だたる商業演劇ではなく、いわゆる小劇場系だが)から始まる。
高校一年生の十六歳、
のっけから血なまぐさい展開だが、世の赤川ファンなら、本作のタイトルから即、著者の代表作のひとつ『三姉妹探偵団』を思い浮かべるに違いない。『三姉妹探偵団』も父親が留守の
本作は有里を中心に、思いもよらない犯罪に巻き込まれた女三代の活躍と
さて、殺人現場となった劇場には幸代も観劇に来ており、物語はそのまま殺人事件の推理へと移っていく──と思ったらちょっと違う。なるほど有里は目の前で倒れたさくらが「文乃さん……」というのを聞いたし、彼女は刑事の
いや、劇場に来た人だけではなかった。三田洋子の上司で事務長の
けだし、著者の
中でも注目は、三田
むろん天本家の三人にも思わぬ出会いがあり、幸代さんは知り合いの病院の壁画制作という大仕事を引き受け、文乃さんは何と別れた亭主(有里の父親でもある)にストーキングされ、有里は
かくして事態はますます
著者は学園の文化祭に合わせて、城所真奈の身に危機が迫るなど、そこからも決して手綱をゆるめることなく、さらなる謎を増幅してみせる。
いやそれにしても、今般現実のニュースで報じられている国内最大のマンモス大学の資金不正流出事件を予見するかのような学園スキャンダルが題材とは。著者はコロナ禍の中、東京五輪開催を強行した政府を批判する声明を出すほどの硬派でもあるが、本作からは、そんな不正をただそうとする社会派趣向もうかがえよう。
ところで、二〇二一年一一月にスタートしたNHKの朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』はラジオ英語講座を通して「三世代の女性たちが紡いでいく、一〇〇年のファミリーストーリー」というのが
それというのも、著者が本作の着想を得たのは、明仁上皇が退位の意思を表明され、新しい時代を迎えることが確定したことがきっかけだったのではないかと思うからだ。本作には具体的な年代は記されていないが、幸代さんが昭和、文乃さんが平成、有里が令和を象徴する女性に設定されていると思われるゆえんである。
なお、シリーズ第二作『三世代探偵団 枯れた花のワルツ』も本書と同時に文庫発売されている。シリーズは現在『三世代探偵団 生命の旗がはためくとき』まで刊行中、「三世代探偵団4 春風にめざめて」も近刊予定なので、天本家の三人とお近づきになりたい方は、本作に引き続きぜひ!
作品紹介
三世代探偵団 次の扉に棲む死神
著者 赤川 次郎
定価: 836円(本体760円+税)
発売日:2021年12月21日
祖母、母、娘。個性豊かな女三世代が贈る痛快ミステリ、開幕。
天才画家の祖母と、生活力皆無でマイペースな母と暮らす女子高生の天本有里。彼女が出演した舞台で、母の代役の女優が何者かに殺された。有里の目の前で倒れた被害者が最後に口にしたのは、母の名前だった。彼女の身に何が起きたのか。事件を追ううちに、3人の周囲に次第に不穏な影が忍び寄り……?個性豊かな女三世代が贈るユーモアミステリ開幕!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322101000253/
amazonページはこちら