文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
(解説:池澤 春菜 / 声優、エッセイスト)
ぎっくり腰になったことがある。
ある朝起きて、何気なくベッドから起き上がろうとしたら、ズバンと来た。
真っ白な頭でなんとか思い出したのが、つい先日のライブで着た衣装。じりじりと1mmずつベッドの端まで体をずらし、
コルセット。
アンティークの、素晴らしく繊細なレースで作られた、
それをパジャマの上からはめ、ぎゅっと
そう、わたしはコルセットに命を救われたのだ。
……というのはちょっと大げさだけど。
コルセットをつけると、体の外と共に身の内がぎゅっと引き締まる気がする。この美しい服に見合った体型でなければ、と思う。コルセットは支えであり、
この長い助走は、わたしがいかにコルセットを愛しているかの説明。そしてこの助走は、この作品を巡って
そりゃね、前時代的ですよ? 今時コルセットをしている人なんて、医療目的か、ちょっと特殊な服装の人か。女性性の抑圧とか、健康に良くないとか、色々言われるかもしれないけれど……でもわたしは、コルセットが支えてくれる自分が好きなのだ。それは拘束だけど、解放でもある、と思っている。
だから、コルセットによって革命を起こそう、なんてお話も、絶対好きに決まっているのです。
ちなみに対談では、鼻息も荒く、本文中に出てくる着物に帯代わりのコルセット、というアレンジでお伺いしました。
17歳の主人公
そんな中で、アクアが出会った、非日常。「どこからどう見ても、古臭くて時代遅れの
閉じ込めるもの、抑圧するもの、秘されるものの象徴のようなコルセットによって、停滞した町の生活と、その外の世界、現実と空想が繫がり、これから人生に挑む少年少女たちと、人生の終わりを見つめる老人たちが繫がり、大きく可能性の扉が開いていく。砂色の毎日を塗り替えていく蛍光塗料。
まさに一着の服が起こす「革命」。今回の文庫化にあたって、タイトルを『テーラー伊三郎』から『革命テーラー』にかえたのもさもありなん。
そこからの疾走、かつ濃密な展開は読んでの通り。
それにしても、登場人物たちの元気なこと、キャラの濃いこと。
アクアと明日香ちゃんの仲。
アクアの書いた研究発表がどうなったのか。
お母さんとの関係は。
隼人と大澤のじいさんの明らかに危険な友情。
そしてもちろん、テーラー伊三郎のこれから。
たくさん続きが気になるポイントはある。
でも、以前対談した時、川瀬さんはこう
あそこでラストを区切ったのは、後の展開を読者に委ねたかったから。この先、アクアや明日香がどうなるかは分からない。きっと夢と現実のギャップに直面して悩むこともあるんだろうけど、この小説に関しては成功して終わるのが美しいかなと。
『テーラー伊三郎』刊行記念対談 川瀬七緒×池澤春菜より
アクアたちの物語は続いていく。今も、もしかしたら日本のどこかの町で革命を起こそうとしているアクアたちがいるかもしれない。でも、次はわたしたちの番なのだ。ここから先は、わたしたちが、自分自身の人生のなかでできる革命を起こしていこう。
心のコルセットを、ぎゅっと締めて。
最後に川瀬七緒さんのご紹介を少しだけ。
福島県生まれ。文化服装学院服装科・服飾専攻科デザイン専攻卒(だからこそのあの服飾の知識と、一着の服を作っていく過程の描写!!)。子供服のデザイナーを経て、2011年『よろずのことに気をつけよ』で第57回
虫愛全開な法医昆虫学者が主人公の、「法医昆虫学捜査官」シリーズ。
報奨金目的に手を組んだ、経歴も性格も違う三人のユニークな長編ミステリ、「賞金稼ぎスリーサム!」シリーズ。
単巻でも、ぶっ飛んだキャラクター、社会の
本書をきっかけに、ぜひ川瀬作品にはまって欲しい。
▼川瀬七緒『革命テーラー』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322003000377/