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レビュー

彼女は彼に、一方的に「選ばれた」のではなく、自らも「選んだ」。 『小説 天気の子』

 物語は。

これから“来る”のはこんな作品。物語を愛するすべての読者へブレイク必至の要チェック作をご紹介する、熱烈応援レビュー!

新海 誠『小説 天気の子』(角川文庫)

「世界が救われること」と「大切な人が救われること」。アニメーション監督の新海誠は、その二つの項目の組み合わせで物語の根幹を構築してきた。セカイ系の代表的作品とも言われる商業デビュー作『ほしのこえ』(二〇〇二年)は、「世界は救われない」し「大切な人も救われない」。その後、『星を追う子ども』(二〇一一年)で「世界が救われる」と「大切な人は救われない」の組み合わせを試み、興行収入二五〇億円超のメガヒットとなった『君の名は。』(二〇一六年)は、「世界が救われる」と「大切な人が救われる」。いわゆるハッピーエンドだ。でも、そうとは言い切れないなと感じるジャリっとした後味も、本作の複雑な魅力となっている。
 三年ぶりとなる最新作『天気の子』は、これまで手を付けずにいた、第四の組み合わせを採用している。この組み合わせは、古今東西のあらゆる物語ジャンルを見渡してみても極めてレアだ。なぜか? どんな気持ちになっていいか分からないからだ。映画公開前日に刊行された『小説 天気の子』は、監督自身によるセルフノベライズ。映画を観て、どんな気持ちになっていいか分からなくなった人が数多く手に取ることだろう。その期待に、小説は一部応える。
 雨が降り続く、異常気象に見舞われている日本。離島に暮らす高校一年生の帆高ほだかは夏のある日、家出をして新宿歌舞伎町へと辿り着く。奇妙な縁が繋がり、須賀すがという中年男性が営む編集プロダクションで、住み込みバイトを開始。先輩ライターの夏美なつみに連れられ「100%の晴れ女」という都市伝説の取材を始めたところ、祈るだけで天気を晴れにする少女・陽菜ひなと出会う。帆高は陽菜の弟・なぎも誘い、オファーされた地域を晴れにする、晴れ女ビジネスをスタートさせる――という中盤までの胸躍るコミカルな空気は、「天気の巫女」というワードをきっかけにガラッと変わる。
 文章でも風景描写に定評のある新海の筆は、現代の東京と共に、未知なる「雲の世界」をいきいきと綴っていく。アニメで描かれた風景やアクションを、ベターっと言葉で再現することなどしない。要所要所で文章の解像度を上げておけば、あとは勝手に脳内で絵を思い浮かべてくれるはずだ、という読者への信頼が、物語の躍動感を高めている。小説ならではの追加要素はやはり、モノローグだ。特に、クライマックスに代表される「選択」に関して、陽菜に思いを語らせているパートは心が揺さぶられる。陽菜は帆高に、一方的に「選ばれた」のではなく、自らも「選んだ」のだ。
 晴れ女ビジネスの過程で帆高と陽菜は、「天気」は人々の「気分」と繋がっている、と気づく。では、この物語世界において降り続く雨はどんな「気分」を表しているのか。端的に言えば、絶望だ。現代の日本のみならず世界を覆っている憂鬱だ。「世界は救われない」。でも、それでも……。小説も読んだからといって、確かな答えが得られるわけではない。ならば、また観ればいい。また読めばいい。誰かと語り合えばいい。知りたい、探りたいと思う衝動をもたらすことこそが、『天気の子』の真髄だという気がしてならない。
映画『天気の子』関連書籍公式サイト

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靴職人を目指す高校1年生の男の子と、謎めいた大人の女性が雨の庭園で出会い「孤悲(こい)」をする――。章ごとに主人公=語り手が変わる全10話の連作短編形式を採用。エピローグでは、アニメのラストで語られた「いつか」の再会が描かれている。降り方が異なる雨の描写の数々も感動的。


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