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レビュー

旅のガイドブックとしても活用できる、おひとり様ロードノベル 『ひとり旅日和』

書評家・作家・専門家が《新刊》をご紹介!
本選びにお役立てください。

(評者:高倉優子 / ライター)


 雑談中に「旅はお好きですか?」という質問をしたとしよう。きっと多くの人が「はい」と答えるだろう。さらに「どこが一番よかったですか?」「何がおいしかったですか?」と尋ねたら、旅先で撮った写真を見せてくれつつ思い出話のひとつもしてくれるに違いない。けれど「ひとり旅をしたことがありますか?」もしくは「ひとり旅は好きですか?」という質問に変えたら、別のリアクションが返ってくる確率が高い。「まだ経験ないんですよ。いつかしてみたいんですけどねぇ……」といった感じで、とたんに歯切れが悪くなるのだ。こんなに「おひとり様」という言葉や概念が浸透した今でも、「ひとり旅」となると、すこぶるハードルが高くなるらしい。
 ちなみに私はひとり旅が大好きだ。20代の頃から国内外問わず、あちこち出かける「ひとりトラベラー」だった。本書は私のような「ひとり旅が大好き」という人はもちろん、未経験者にもおすすめしたい「おひとり様ロードノベル」である。
 主人公の日和は、24歳の会社員。家族から「人見知り女王」と呼ばれるほど人見知りで、要領も悪く、会社の上司に叱られてばかりいる。あるとき「気分転換に旅へ出てみては?」と社長から提案され、旅の名人でもある先輩の麗佳から後押しを受けたこともあり、ひとり旅に出ることになり……というあらすじだ。
 5話からなる連作集だが、その目次を記してみよう。「第一話 熱海―茹で卵と干物定食」「第二話 水郷佐原―蕎麦ととろとろ角煮」「第三話 仙台―牛タンと立ち食い寿司」「第四話 金沢―海鮮丼とハントンライス」「第五話 福岡―博多ラーメンと鯛の兜煮」。地名を見て場所がピンとこなくても、描かれた名物料理から「読んでみたい!」と思わせる魅力的なラインナップとなっている。
 著者の秋川滝美さんといえば、ドラマ化もされたベストセラー「居酒屋ぼったくり」シリーズでおなじみ。安くておいしい料理の描写には定評があり、本書でもその手腕を発揮している。どの料理も魅惑的だけど、一番気になったのは金沢のハントンライスだった。本書では「オムライスみたいでもあるし、分解して再構成したカツ丼みたいでもあるし……」と表現されており、味の想像ができるようでできない。だからこそ「これを食べに金沢へ行かなくちゃ!」と素直に思えた。
 旅のガイドブック的に活用できるのはもちろんだが、ひとり旅を通じて日和が変化していく様が感じられる「成長小説」としても楽しめるし、「備え付けドライヤーは、ホテルの客に対する気遣いの絶好の評価基準だ」といった「旅人あるある」なウンチクも描かれており、読みどころ満載。また、ある心ときめく出会いが物語の鍵となっており、まさに「袖振り合うも多生の縁」を実感できる小説なのだ。
 読み終えた後、あなたはきっと、ひとり旅に出たくなるだろう。かくいう私、来月、熱海を旅する予定だ。本書にも描かれている來宮神社のそばで和菓子屋を営む友人に会いに行こうと思う。その時は忘れずに、日和が食べていた「小沢の湯」の茹で卵を食べなくちゃ!

ご購入&試し読みはこちら▶秋川滝美『ひとり旅日和』| KADOKAWA

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