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レビュー

少年の成長を軸に描いた独創性の高い幕末もの 『お茶壺道中』

 本書を読むと、題材選定のうまさ、モチーフに込めたメッセージのもつ現代性、それを豊かな物語に仕立てる手腕の凄みに改めて感じ入ってしまう。ヒタヒタと潮が満ちてくるような満足感に浸ることができる。
 物語は政局の混迷深まる幕末。作家にとって〝幕末〟ほど魅力的な題材はない。なぜなら、〝開国〟〝尊王〟〝攘夷〟〝討幕〟といった思想が入り乱れる中、時代は地滑り的な変動を起こし、そこに濃縮された人生ドラマが展開するからである。それだけに著名人物の伝記ものをはじめ、多くの歴史時代作家が手がけ、類似本で溢れている。そうなると、どこに題材を求め、それをどう料理するかが生命線となってくる。
 作者が初めて幕末に挑戦したのは、二○一五年に刊行された『連鶴』である。悲運に見舞われた桑名藩と主人公兄弟の生きざまを、桑名くわな藩に伝わる千羽鶴に託したメッセージが、独自性に満ちた作品で、作者の非凡な筆力を立証した。二作目にあたる『ヨイ豊』(歴史時代作家クラブ賞作品賞)は、江戸時代の終焉と浮世絵の終焉を二重写しで描くことで、時代と文化の緊張関係に触れ、新境地を示した。
 二作品とも独創性の高い幕末ものであった。当然、三作目でどんな題材に着目するか、期待は高まる。作者が選定した題材は、〝御茶壺おちゃつぼ道中〟である。「ずいずいずっころばし、ごまみそずい、茶壺におわれてとっぴんしゃん、抜けたらどんどこしょ、俵のねずみが米食ってちゅう、ちゅうちゅうちゅう——」というわらべ唄は、山城やましろ宇治うじ郷から将軍家に茶葉を運ぶ御茶壺道中の情景を表したものである。
 作者はこの御茶壺道中に着目し、時代の変化を体現する布石としている。そこにこの御茶壺道中をこよなく愛し、寄り添って生きる主人公・仁吉にきち(後の仁太郎にたろう)の〝志〟と〝哲学〟を投影している。仁吉は宇治郷の生まれで、宇治茶を誇りとし、安政二年(一八五五)に十一歳で森山もりやまえんに奉公。宇治茶と森山園を守ることが生きがいの少年として造形されている。
 作者のもうひとつの工夫がここにある。幕末ものでは希少価値がある少年少女の群像劇と、成長物語に照準を合わせたのである。茶壺に追われるように時代は、奔流のような速さでめまぐるしく変化していく。開国、桜田門外の変、生麦事件、安政の大獄、横浜開港、貿易の開始と、容赦なく仁太郎達を巻き込んでいく。御茶壺道中が先細りしていくのに合わせて宇治茶にも大きな変化が訪れる。徳川幕府と宇治茶は運命共同体である。横浜開港と貿易の開始も宇治茶と森山園に多大なインパクトとなって襲ってくる。仁太郎はこの難題にどう立ち向かっていくのか。
 作者はこの仁太郎の成長過程を、大人の思惑や友情、恋といったドラマを巧妙に織り交ぜながら、説得力のある筆致で描いている。
 仁太郎の成長を象徴するセリフを二つ紹介する。ひとつは仕事との向き合い方である。

色や軟らかさを出すために、別の物を混ぜ込むなどということがあってはなりません。そうしたことを金のために平気でできるのは、茶葉に思い入れがないからです

 もうひとつは商人の誇りである。

私たちは、宇治という茶処から来て、この江戸で商いをし、江戸を支えてきたという自負がございます。商人が江戸を栄えさせてきたのであるなら、江戸を守るのがお武家の役割ではございませんか? 怯えて暮らすのは真っ平です。なにゆえ、無頼どもを一掃なさらないのですか

 小気味好い啖呵たんかである。凛々しい若者に成長した証である。作者は少年の成長ぶりを、武士ではなく、時代の変化に動じず、信念を貫く商人として描くことで、幕末の真実に迫っている。仕事に誇りを持ち、守るものがあることの強さを教えてくれる。不遇の時代に生きる少年少女へのメッセージでもある。今年の注目作となることは間違いない。



書誌情報はこちら>>梶 よう子『お茶壺道中』


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