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以前の住まいの近所であひるを飼っている家を見かけ「あひるって飼えるんだ」と思ったことがある。本書の「わたし」の家であひるを飼い始めると、近所の小学生が遊びに来るようになる。「のりたま」と名付けられたあひるを巡る平和で穏やかな日々。しかしあひるの不調が物語に影を落としていく。
入れ替わっていく「のりたま」、何かを祈り続ける家族、でも本当のことを誰も口にしない……一つの嘘を飲み込んでしまうと、二つ目も三つめも飲んでしまう「わたし」。
本書の「あひる」とはいったい何なのだろう。白い羽に黄色いくちばし、もしかしたら「あひる」はたいていの人が思い描くあの「あひる」とは違うのかもしれない。ひたすらに愛を傾けられる存在は、新たなる愛の対象があらわれると存在意義を失う。愛されなくなった「あひる」の行方はわからないし、家族のその後を知るのも怖い。もしかしてあの近所の家も……? と、思い返している。
書誌情報はこちら>>今村夏子『あひる』
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