「宇宙編」と「生命編」の共通点


 さて、「宇宙編」と「生命編」には共通点がある。
 ひとつは「他人の生命をないがしろにした者が報いを受ける」というテーマだ。
「宇宙編」では、牧村が行った惨殺に対する報いと、赤ん坊を殺した猿田とその血を引くものに与えられた永遠の報い。「生命編」では、視聴率競争のためにクローンを使った殺人ゲームを企画した青居に与えられた報いだ。
 もうひとつは、これらの報いを、火の鳥がフレミル人や鳥女の姿で現れて直接実行しているという点だ。
 作品に登場する火の鳥は、狂言回し役として全編に関わっているが、あくまでも地上の生き物たちの営みを見守る存在。火の鳥には善も悪もなく、それらを超越した宇宙生命が火の鳥だと思われていた。
 しかし、「宇宙編」「生命編」では、宇宙人の女、あるいは宇宙からインカにやってきた鳥女という実体をもって登場し、牧村や猿田、青居たちの犯した悪行に対して厳しい罰を与えることになる。
 手塚自身は火の鳥について固定したイメージを読者に与えるのは良くないと考えていたのだろう。
「鳳凰編」や「乱世編」のように、火の鳥が生きている登場人物と直接関わりを持たない作品もあれば、実体をもって登場人物に関わる作品もある。アニメの『火の鳥2772』には獰猛な火の鳥も登場する。
「関わる者の心の持ち方でさまざまな姿に見えるのが火の鳥」ということを示そうとしたのがこの2作ではなかったか、と思われる。
 発表媒体も発表年も異なっているが、同じテーマを持った同質の作品をカップリングしたことで、手塚が伝えたかったものがはっきりと見えてきた、というのもこの角川文庫版の特徴といえるだろう。


>>手塚 治虫『火の鳥9 宇宙・生命編』

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書籍

『火の鳥9 宇宙・生命編』

手塚 治虫

定価 950円(本体880円+税)

発売日:2018年10月24日

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