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レビュー

手塚治虫版旧約聖書!?無人の星にたどり着いた女は、子孫を残すため自分の子供と結ばれる『火の鳥6』

 

3年ぶりの連載再開

「望郷編」は、朝日ソノラマ(現・朝日新聞出版)の『月刊マンガ少年』の創刊号(1976年9月号)から78年3月号に連載された。73年8月の『COM』休刊から3年ぶりの連載再開だった。
 当時、朝日ソノラマから新書判で出た手塚の代表作『鉄腕アトム』が好評で、「ぜひ『火の鳥』も復活して欲しい」という読者からの声が強くなっていたのだ。
 朝日ソノラマはこの声に押されて、『火の鳥』の連載再開を目玉に、かつて『火の鳥』を連載していた学童社の雑誌『漫画少年』にならった『月刊マンガ少年』を創刊したのである。
 3年のタイムラグを考慮して、手塚は『COM』版の「復活編」までを一区切りとして、中断していた「望郷編」をまったく新しいエピソードとして再開することを決めた。
『COM』版から引き継がれたのは、コムの造形やエデンの町並みやロミの神殿のデザインくらいだ。
 単行本は78年9月に朝日ソノラマから『月刊マンガ少年別冊』として刊行され、単行本化にあたっては、冒頭の火の鳥のモノローグが加筆された。これが「ソノラマ版」だ。
 角川書店からは86年に豪華版単行本として刊行されたが、このときに手塚の手で大掛かりなディレクターズ・カットが加えられている。まず、ソノラマ版にはなかった章扉が設けられ、11の章に分けられた。登場人物も大幅に整理され、連載時には重要な役割だった雌雄同体生物のノルヴァの登場シーンが全て割愛されるなどした。
 次ページに紹介したのは、本書の175ページに対応するソノラマ版である。ロミとコムの間にいるのが雌雄同体生物のノルヴァだ。連載では、ロミやコムたちとともに宇宙を放浪して、最後はノルヴァの子どもたちがロケットで飛び立っていくシーンで締めくくられている重要な役だ。
 しかし、あえてノルヴァをカットしたことで、ロミとコムと牧村まきむらの関係はそれぞれに明確となり、平和なエデンに堕落をもたらすトリックスター・ズダーバンの存在も際立ってくる。

旧約聖書をもとにしたSFファンタジー

 このほかにも改稿や削除は100ページ以上にも及んでいる。手塚は単行本化の度に改稿を続けた、と言わているが、それにしても大幅な改訂だ。
 理由のひとつに、それまで『火の鳥』を連載していた『COM』がマンガマニアをターゲットにした青年向けの雑誌だったのに比べて、『月刊マンガ少年』は中学生程度の少年をターゲットにしていたため、作品のトーンが変わってしまった、ということがある。
『COM』版では、さまざまな実験的な表現も取り入れられているが、『月刊マンガ少年』版では、複雑な表現を極力抑えて、わかりやすさを心がけている。その分、ストーリー運びは冗長にならざるを得ず、手塚としても大幅な改稿のチャンスをうかがっていたのは間違いない。
 角川版はマンガを卒業した世代の読者をターゲットに、書店でも文芸書と並べて売ることになっていたので、大人向きの編集を加えることができたのだ。
 章分けを加えたのも大幅な改稿のあとをできるだけ消すためだったと考えられる。
 その結果、角川版では手塚が描こうとしたテーマもわかりやすくなった。
 手塚が描こうとしたのは「旧約聖書」の世界だ。「鳳凰編」が仏教の輪廻転生の世界を描いたように、ここでは「旧約聖書」の創世記に書かれた、天地創造と人間の堕落の物語を、宇宙を舞台にしたSFファンタジーとして描いたのだ。
 ズダーバンはアダムとイブに悪徳のささやきをする蛇の分身だろうし、クライマックスのベースになっているのはソドムとゴモラの滅亡だ。そうなると、たしかにノルヴァの存在は余計かも知れない。
「未来編」のムーピーなど、各編に繋がる部分も多いが、一番重要なのは「宇宙編」に登場する牧村だ。「宇宙編」(9巻に収録)では、牧村の過去は語る人間ごとに異なっていて謎に満ちているが、本作は彼が地球連絡員だった時代の姿が描かれている。
 連載版では、ロミは牧村に殺されてしまうことになっていたが、単行本では牧村が撃ち殺す前にロミが死んでしまったことに変更されている。これは、単行本化に際して、牧村がロミのひつぎをエデンに運んでくるというラストシーンを描き加えたためだ。
 なお、ソノラマ版「望郷編」も、朝日新聞出版から刊行中で、両者を読み比べても面白いと思う。

>>『火の鳥6 望郷編』


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