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レビュー

車いすテニスに関わる人々を通して描かれる物語の最終的な問いは「人間って何なのか」『パラ・スター 〈Side 百花〉/〈Side 宝良〉』

物語は。

これから“来る”のはこんな作品。物語を愛するすべての読者へブレイク必至の要チェック作をご紹介する、熱烈応援レビュー!

阿部暁子『パラ・スター〈Side 百花〉/〈Side 宝良〉』(集英社文庫)



 室町時代を舞台にした歴史小説、香りをモチーフにした「日常の謎」のミステリー、新海誠とテッド・チャンを彷彿させるエモいタイムトラベルSF……。少女小説出身の阿部暁子は、新作のたびに果敢なアタックを続けてきた人だ。最新作『パラ・スター』は、障害者スポーツのひとつ、車いすテニスを巡る物語。第一部には〈Side 百花〉、第二部には〈Side 宝良〉という副題が付いている通り、二冊はメインを張る主人公=視点人物が変わる。と同時に、第一部は「お仕事小説」であり、第二部はゴリゴリの「スポーツ小説」だ。巻をまたぐとはいえ一作の中で、ここまでガラッと物語のジャンルが変わることは極めて珍しい。どちらも作者にとって初挑戦となるジャンルだが、すさまじい完成度だ。

 二〇一九年五月から始まる第一部〈Side 百花〉は、千葉に本社を置く老舗車いすメーカー・藤沢製作所で働く新米社員、山路百花を主人公に据える。主な仕事は、機動性を高めるため「ハ」の字型に設置された左右のタイヤが特徴的な、競技用車いすの製作だ。百花がこの仕事を選んだ理由には、二〇二〇年東京パラリンピック出場が噂されている車いすテニスのトッププレイヤー、君島宝良の存在があった。中学で出会った親友、宝良が、高校二年の秋に交通事故で車いす生活を余儀なくされた時、車いすテニスを勧めたのは、百花だったのだ。「たーちゃんはパラリンピックにも出るくらいの、最強の車いすテニス選手になって。わたしは、たーちゃんのために最高の車いすを作るから」。しかし、着実に夢へと近づく親友に比べ、入社一年ちょっとの自分は車いすエンジニアとしては下っ端に過ぎなくて……。焦る百花の内面とともに、競技用車いす製作という「特殊」な仕事の現場風景や職業倫理、失敗と成功がいきいきと描写される。その過程で、「特殊」が「普遍」へとジャンプする瞬間が幾度となく現れる。「仕事とは何か?」。お仕事小説が追求し続けてきた問いに対する、完璧なアンサーがこの本の中にある。

 二〇二〇年一月から始まる第二部〈Side 宝良〉は、パラリンピックの代表選考直前、突如スランプに陥った君島宝良の葛藤にフォーカスが当てられる。精神論ではなく、徹底的な理詰めでスランプ克服に立ち向かう宝良の姿を通して、車いすテニスの魅力や特殊性がいかんなく伝達される。しかも、第一部では要所要所で挿入されていたに過ぎない車いすテニスの試合風景が、プレイヤー目線でたっぷりと記述されるのだ。その過程で、「人はなぜスポーツをするのか? “強い”とは何か?」といった問いに対する、やはり完璧なアンサーが出現する。

 気弱な百花と強気な宝良のコンビだけでなく、百花の会社の先輩や社長も、宝良のコーチやライバルや母親も、車いす生活を始めたばかりの少女も、みながみな強烈な存在感を放つ。その理由は、彼らがそれぞれの人生の中で培い、届けるべき相手のためにオーダーメイドした「言葉」を持っているからだ。続出する名台詞を前に、じゃんじゃん泣いた。それ以上に、猛烈に熱くなった。「東京オリンピック・パラリンピック2020」は、この小説を世に存在させるためにあったのではないかと言ってしまいたくなる、大傑作だ。

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