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特集

芦沢央×呉勝浩 白熱対談〈前編〉「『カインは言わなかった』は気迫と描写力でねじ伏せてくる」

撮影:小嶋 淑子  構成:瀧井 朝世 

芦沢央さん『カインは言わなかった』、呉勝浩さん『スワン』
刊行を機に、最注目のお二人の対談が実現。
作品のことから創作論まで、バッチバチの対談を前後編でお届けします!

芦沢さんとは、近いものを感じていたんです(呉)

呉勝浩(以下、呉):僕が『道徳の時間』で江戸川乱歩賞を受賞した2015年、『野性時代』の10月号でインタビューを受けたんですよ。見本が届いたので見ていたら、ちょうど芦沢さんのデビュー作『罪の余白』が映画化されることが紹介されていて、しかも『バック・ステージ』の連載で「舞台裏の覚悟」の章が載っていて。芦沢さんの名前はその前から知っていたけれど、なんぼのもんじゃいと思って。

芦沢央(以下、芦沢):ちょっと、いきなりケンカ腰じゃないですか(笑)。

呉:芦沢さんや葉真中はまなかあきさんは僕より少し前にデビューしていたんですが、やっぱり年齢の近い人ということで意識していましたよね。どういうものを書いて、どういう評価をされているのかというのはすごく気にしていました。芦沢さんはミステリーの賞出身ではないけれど、近いものを感じていたんです。あらすじを読んでもそうだし、『悪いものが、来ませんように』なんてタイトルをパーンとつけて出してくるような感じが、すごく印象に残っていました。

芦沢:いやいやいや。そうだったんですか。私も、呉さんは「嫌な存在」でしたよ(笑)。なんか、興味の方向が結構似ているなって感じるんですよね。

呉:分かります。

芦沢:だから新刊が出る度に、「うわ、また力作書いてきたよ!」「なんでこんな面白いものを書くんだー!」ってビビっていました。それに、以前から、下村しもむら敦史あつしさんとかから、「呉さんはぶっ飛んでいる」みたいなことを聞いていて。

呉:それが小説じゃなくてキャラクターのことだっていうのが残念ですよね。

芦沢:はじめてお会いしたのが、今年の日本推理作家協会賞の選考の日だったんですよね。私も呉さんも短編と長編で部門は違うけれど候補で。で、「ああ、落ちた」となって、なぜか「呉さんも残念会やっているから合流しよう」ということになり。

呉:芦沢さんが来た時はもう僕はべろんべろんでしたよね。受賞した葉真中さんが来たのがその後だったかな。

芦沢:後でした。で、冗談で呉さんが葉真中さんの胸倉をつかんだポーズの写真を撮って、ツイッターに放流したという(笑)。残念会って普通は担当編集者に囲まれて「次頑張りましょうね」なんて言われて温かな感じになるのに、なんで私は今日こんなに爆笑しているんだろうと思いました。

呉:あれは面白かったね。

芦沢:面白かったですね。呉さんが噂に違わない方だと分かりましたし。だから今日はどんなノリでいこうかなと思っていて……。

呉:バッチバチでいきましょう!!

芦沢:そう言われるんじゃないかと思ってました。めちゃめちゃ駄目出しされたらどうしようって……。

呉:お互い社会人の常識あるでしょう? それは信じよう(笑)。

『カインは言わなかった』には気迫と描写力でねじ伏せられました(呉)


芦沢央『カインは言わなかった』(文藝春秋)


呉:今日の対談は僕がお声がけしたわけです。僕は今回『スワン』という小説を出しましたが、ちょっと前から芦沢さんも新作『カイン~』でバレエダンサーの話を書いていると聞いていて、マジかと思っていて。

芦沢:『スワン』もバレエをやっている女子高生が主要人物なんですよね。

呉:まあ普通に焦りますよね。それで、『カイン~』が大阪の書店に置かれたその日に買って読んで、そこから2日間くらい、この作品についていろいろ考えさせられましたよ。僕、たぶんこの小説を楽しんだ人間ランキングの上位3%には入ってます。僕は基本、その本を読んだ人としか話さないんですけれど、『カイン~』については読んでいない人も5、6人はつかまえて話したんですよね。人と話したくなる作品です。

芦沢:ありがとうございます。

呉:ツイッターを見ていても、人によって解釈が違ったりしているなと思ったので。で、実作者がどう思っているんだろうと……まあ、ぶっちゃけこうやって聞くのって、野暮は野暮なんですけれど。

芦沢:いやいやいや。私は今日は『スワン』の話をするつもりだったんですが。



呉:いや、先に『カイン~』の話しちゃっていいですか。名門ダンスカンパニーの主演ダンサーが公演3日前にいなくなるところから始まりますが、これは芦沢さんが、芸術とか表現、演じることと演じさせられること、師匠関係での支配と被支配とか、執着といった、ご自分の中にあるテーマを注ぎ込んだ印象があったんです。視点人物だけでも5、6人いますよね。その人ごとに話をA、B、C、Dに分けた時、あるひとつのテーマでまとめようとするとそこにA、B、Cは入るけれどDははじかれて、別のテーマでまとめるとB、C、Dは入るけれどAははじかれる……みたいな構造になっている気がするんです。それがすごく面白くて。それって、悪い言い方をすると、テーマに一貫性がないとも言えるじゃないですか。でも、それを芦沢央の気迫と描写力でねじ伏せている感じがすごくある。で、どのテーマも、一言では言い切れないところに着地させようとしている。言ってみれば、安直な答えを全力で拒否しているところがあるんですよね。

芦沢:ありがとうございます、嬉しい。

こんなもの書かれたらたまったもんじゃないわ(芦沢)

芦沢:『スワン』もめちゃくちゃ面白くて、「こんなもの書かれたらたまったもんじゃないわ」というのがまず褒め言葉としてあるんです。で、私もいろいろ訊きたいことがあるんです。スワンというショッピングモールで無差別殺人が起きて、生き残った人たちが謎の人物にお茶会に集められて、当日の行動を確認される。「あの時なぜああしたのか」「こうしたほうが良かったんじゃないか」って追い詰められていくなかで、生き残った一人、バレエをやっている女子高生の片岡いずみが、ある人物と対決しますよね。あそこはある意味、エンタメとしてのクライマックスじゃないですか。呉さんの作品ってこれに限らず、エンタメとして面白いものを書くんだという覚悟を感じて、だからこそそこに収まりきらない何かが際立っていると思うんですが、これもそういう場面。恐ろしい理不尽な出来事が起こって、それに飲み込まれていく人たちという、生半可な気持ちでは絶対書けないものを、すごい覚悟を持って書いたうえで、でもエンターテインメントしている。あのシーンを書く時に迷いはなかったんでしょうか。

呉:自分ではむしろエンタメとして成立しているかどうかはギリギリだなという感じがあって。僕は驚きをどうぞ、みたいな感じはあまり得意でないし、仕掛けを施してミスリードをさせて、みたいなものは自分のやりたいこととはちょっと違ってしまうんです。まあ、エンタメ魂があるかって訊かれたら、「ありますよ」と取材では言いますけれど(笑)。あのシーンに関しては、書くのはわりと迷いがなかったですね。むしろ書こうという気持ちがあった。エンタメだからという意味だけでもなくて、ちゃんと書いておかねばならんだろうなっていうのがあって。

芦沢:エンタメにしようという目的ではなかったんですね。

呉:自分にとって面白いものってエンタメなんです。どんな小難しい議論も、自分が面白いと思ったらわりとエンタメだと思っちゃうので、そこはあまり線引きして書いている気がしませんね。

芦沢:前半、いろんな情報が伏せられているじゃないですか。最後の最後まで引っ張る謎がある。ミスリードは意識しないけれど伏せておくということなんでしょうか。風呂敷の広げ方だってめっちゃ上手いじゃないですか。どんだけ広げるんだっていう。

呉:それは何も考えていないから広げられるんです。そんなもんね、畳み方を細かく考えたら広げられないですよ。広げてみてから考えるという。

芦沢:広げて広げて、畳み切っていますね。



呉:まあ、なんとかやりたいことはできたかなという感じにはなっています。僕がいちばん大切にしているのは、基本的にINGなんですよ。読んでいるその瞬間、楽しいか楽しくないかってことをいちばんに考えたい。謎かけも伏線も、今読んでいるこの瞬間に面白いと思えるようにやりたいなと。
で、後で辻褄合わせを必死でするんです。書き終わって、いったん作品と距離を置いて、売る側の人間の立ち位置に近いところから作品を見て、「もうちょっと分かりやすくしたほうがいいんじゃないか?」と思ったら直したりはする。でも書いている時あまりそこは考えられない。僕、事前にプロットは作らないので。

芦沢:じゃあこれは最初、どこまでプロットが……。

呉:全然なかったですね。実際に何が起こったかも決めてないし、なんでみんな集まってごちゃごちゃしてるんだろうって。

芦沢:ええっ、ええっ。

呉:いずみが最初「私はスワンにいませんでした」って言うところも、「いませんでした」って言ったほうが面白いかなと思ったからで、書いてから、なんでいなかったのかなって悩んでしまって。

芦沢:そこも決めてなかったんですか! どんだけ行き当たりばったりなんですか!! 最後に明かされる、事件の裏で実際には何があったのかということも、最初は何も決めてなかった?

呉:なかったですね。

芦沢:じゃあ、最初に決まっていたのは何だったんですか(笑)。

呉:ショッピングモールにロケハンに行って、貯水池があったんでスワンっていう名前のショッピングモールにしようと思って、スワンといったら白鳥の湖だなってなって、じゃあ、バレエさせてみっかな、みたいな……。本当にバレエについて真剣に調べて書かねばと思ったのは、第1回のお茶会が終わってからですね。でもまだ何が起こっているのか全然分かっていないから、結局、後のほうから振り返ってちょいちょい直したりしました。そういう書き方だから、僕、絶対連載はできないと思ってます。書き下ろししかできない。(※編集部注:『スワン』は全編書きあがった後、「カドブンノベル2019年9月号」に一挙掲載された。)

芦沢:その都度、自分でも「なんでこうなんだろう?」と言いながら書いているってことですか。

呉:それがいいのか悪いのか分からないんですけれど、そういうやり方のほうが向いているというか。芦沢さんもプロットはお作りにならないとおっしゃってるじゃないですか。でも、『カイン~』はかなり入り組んだ話だし、どのタイミングでどの情報を出すかもセンシティブにやらないといけなかったでしょう? それこそ他の作品でも、長篇の『いつかの人質』や『悪いものが、来ませんように』なんかは伏線を仕込んでおかないといけないタイプの話じゃないですか。それもプロットなしでやるんですか。

芦沢:そうですね(笑)。

呉:今あなたから言われたことを全部お返しするわ!(笑)


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最新号 2019年12月号

11月10日 配信

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