『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』より、第1章を特別公開!
>> 第 2 回「三浦しをん・松本清張が描く、女同士の関係」


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――究極の女性社会である「女官の世界」。
三浦は震え、原は興奮した。
 山川三千子みちこという元女官が書いた『女官 明治宮中出仕の記』(講談社学術文庫)という本がありますが、これを読むと、女官の世界は大変に禍々まがまがしい感じがします。

三浦 はい。私はまだ、原さんの解説原稿しか拝読できていないのですが、本文からの引用箇所が怖くて、ぶるぶる震えました。
 山川は明治の末から大正にかけての数年間、明治天皇の皇后である昭憲しょうけん皇太后に仕え、皇太后の死を機に宮中から退き、半世紀近く経ってから一気に書きあげた。初めて知るような宮中の秘話が満載されているんですが、この本が書かれたミッチーブームの頃が一番皇室も開かれていましたから、可能だったのでしょう。
 文面から感じられるのは、貞明ていめい皇后(大正天皇の皇后)への感情の激しさです。この激しさは山川三千子に特有かというと、けしてそんなことはない。椿という源氏名をもった女官は大正天皇にかわいがられましたが、やはり貞明皇后が如何にヒステリックだったかを、「おきちがいさんみたいに」などと平気で語っている(『椿の局の記』山口幸洋 近代文芸社、2000 年)。これは天皇に対するタブーが皇后にはないためにバイアスのかかった書きかたをしているのか。それとも本当にそういう風に思っているのか。
三浦 三角関係になったときに、男二人と女一人の場合、男同士はなぜか仲間的関係になるけれど、女二人と男一人の場合、女同士は争いあう、とよく言われます。男が浮気すると、妻は「何よ、あの女」と夫よりも相手の女性のほうを攻撃し、浮気相手の女性も「あんたがイケてない女だからよ。せいぜい負け犬の遠吠えしてれば」となる。まあこれも、「女は敵対しあうものである」という一種の「過剰な思い入れ」が生んだ言説かもしれませんが、そこから考えるに、その女官は皇后と張りあっていて、「おきちがいさん」なんて罵ったんじゃないでしょうか。
「あの子ブスだよね」という類の発言は、男性の視線が入って初めて出てくるものだと思います。男性基準で、女性が女性を順位付けしているのでしょう。女性のコミュニティでは、基本的に横並びがよしとされる傾向にありますが、男性の視線=社会や組織での実利が絡んでくると、途端にこういった、「あの子ってさあ」的発言が行われる。少なくとも発言の瞬間は、本当にそう思ってるんだと思います。ところで、女官のかたがたって、華族の出身なんですか?
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 山川の旧姓は久世くぜで、子爵の家柄でした。総じて高等女官の家柄はいいですね。

三浦 ふうむ。山川三千子の発言には、「私が一番美しかった」という気持ちがかなり直截ちょくせつに表れていて、「あわわ」と思いました。自意識がすごいというか……。地味な女官一派の話も聞いてみたいですね。きっと、「あの人たち、怖いよね。化粧の時間がむっちゃ長いし」って、山川一派を陰から観察していたと思う。
――話は、昭和天皇の母である、貞明皇后に及ぶ。
原は長いこと、貞明皇后の存在に奇妙に惹かれていた。

書籍

『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』

原 武史 三浦 しをん

定価 1620円(本体1500円+税)

発売日:2019年02月27日

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    書籍

    「本の旅人2019年3月号」

    角川書店編集部

    定価 100円(本体93円+税)

    発売日:2019年02月27日

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