世界で8500万部の大ベストセラーになっている『アルケミスト 夢を旅した少年』の作者、パウロ・コエーリョの最新刊『弓を引く人』が刊行されました。弓道を題材にした寓話を通して、人生を実り豊かにするヒントがちりばめられた、素敵なイラスト満載の本です。まずは、プロローグの一部の試し読みからお楽しみください。
『弓を引く人』試し読み#1
「
少年はその見知らぬ男を驚いて見つめた。
「この村の人は誰一人、哲也さんが弓を持っているところを見ていません。みんな、彼のことを大工だと思っています」と少年は答えた。
「彼は弓をあきらめたか、または自信をなくしたかしたのだろう。そんなことは私にはどうでもよいことだ」とその見知らぬ男は言った。「もし彼が弓をやめたのであれば、もはや、この国で一番の射手とはいえまい。私が何日間も旅をしてここまでやってきたのは、彼に挑戦して、国一番の射手、弓の名人だという、すでに意味のない彼の評判をもうおしまいにするためなのだ」
少年は、この男とこれ以上議論してもむだだと分かった。間違いであることを分かってもらうためには、この男を哲也の工房に連れて行くのが一番いいだろう。
哲也は彼の家の裏にある工房にいた。
哲也は誰が訪ねて来たのかを確かめようとして、こちらを振り返った。しかし、その見知らぬ男が携えていた長い袋を目にすると、哲也の微笑みはたちどころに消えた。
「まさに、あなたが想像されたとおりです」とやってきたその男は言った。「私がここに来たのは、今や伝説になっているあなたに恥をかかせるためでも、あなたを怒らせるためでもありません。ただ私は、自分が修行に何年もついやして、ついに
哲也は自分の仕事を再び始めようとした。彼は机に脚を取りつけるところだった。
「長年すべての世代の人々の手本であり続けた立派なお方が、今のあなたのように、人々の前から姿を消すことは許されません」と見知らぬ男はさらに続けた。「私はあなたの教えに従いました。そして、弓道を敬い、大切に学んできました。私にはあなたに弓の技を見ていただく資格があると思います。あなたに見ていただければ、私は帰ります。そして、最も偉大なマスターの居場所は他の誰にも絶対に教えません」
その男は袋から長い弓を取り出した。その弓は光沢のある漆で塗られた竹でできていた。そして握る部分は、弓の中央よりやや下についていた。彼は哲也に向かって深くお辞儀をしてから、庭に出ていった。それから、彼はある場所に向かって、もう一度お辞儀をした。
彼は、ワシの羽根のついた一本の矢を取り出すと、次に両足でしっかりと地面を踏みしめて立った。それは矢を射るための確固たる基本姿勢だった。さらに、今度は片方の手で顔の前に弓をかかげると、もう一方の手で、矢を定位置にあてがった。
少年はよろこびと驚嘆の面持ちでこれを見ていた。今や哲也も仕事を中断して、その男の行動を興味深げにじっと見つめていた。
男は矢を
矢が顔の高さまできたとき、弦は十分に引き絞られていた。永遠に続くかのように感じられる一瞬、射手と弓は完全に静止した。少年は矢が向けられている方向を見たが、そこには何も見えなかった。
突然、弦を持つ手が開かれ、その手は後ろに放たれた。
もう一方の手で支えられていた弓は優雅な弧を描き、矢は一瞬、視界から消えたが、再び遠くに現れた。
「行って、矢を取ってきなさい」と哲也が少年に向かって言った。
少年が矢を持って戻ってきた。その矢先にはサクランボが刺さっていた。少年はその矢を40メートル先の地面の上で見つけたのだった。
哲也は矢を射た男に軽くお辞儀をすると、仕事場の片隅に行き、長細い木の枝のようなものを手に取った。それは微妙にカーブしていて、細長い革で包まれていた。
哲也がゆっくりと革の覆いをほどくと、中から男が使った物によく似た弓が現れた。ただ、男の弓と違って、哲也のものはずっと使いこまれているように見えた。
(つづく)
作品紹介:『弓を引く人』著パウロ・コエーリョ
弓を引く人
著者 パウロ・コエーリョ 共訳 山川 紘矢 共訳 山川 亜希子
定価: 1,980円(本体1,800円+税)
発売日:2021年11月20日
『アルケミスト』のパウロ・コエーリョが贈る、人生を実り豊かにする教え
この国で最高の弓の達人である哲也は、現在、小さな村の普通の大工として生きていたが、ある日、遠い国から来た別の弓の達人から挑戦を受けた。
哲也はこの挑戦を受けることによって、その弓の達人だけでなく、村の少年にも弓の真髄を教えるのであった――。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322102000108/
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