あの「民王」が帰ってきた!
新作『民王 シベリアの陰謀』がいよいよ9月28日に発売予定。第二次内閣を発足させたばかりの武藤泰山を絶体絶命のピンチが襲う! 冒頭部分を5回に分けて特別掲載します。
『民王 シベリアの陰謀』#1
プロローグ
夢の中で質問に立っているのは、憲民党の
──総理にお伺いします。現在、我が国はかつてない地政学的リスクに直面しております。防衛戦略の抜本的見直しを迫られる状況をどう考えておられるのか。また、いまや全世界的に取り組みが本格化している脱炭素、温暖化対策の遅れによる国際社会からの批判をどう受け止めておられるのか、お尋ねいたします。我が国の地位向上に向けて、どのような政策を取るおつもりなのか、この場で明確な方向性を示していただきたいと思います。
そんなものがあるのなら答えてみろ、といわんばかりの態度である。
相変わらず憎たらしいヤツだ、と泰山は思った。
だが、負けるわけはない。この手の論戦は得意中の得意とするところで、国会の答弁と
ところが──。
──内閣総理大臣、
立ち上がったのは泰山ではなく、どういうわけか
指名された翔は答弁を渋り、ダダをこねているように見える。
「なにやってんだ、翔。早く答弁しないか」
泰山は焦りつつもそれを見守るしかない。
──武藤泰山くん。
発言を促されても、なかなか翔はこたえなかった。ついに官房長官の
──た、た、ただいまの質問にその──おっ答えシマース。
「外国人か、お前は」
頭を抱えた泰山の耳に翔の答弁が聞こえてくる。
──ええっと、アジアにおけるわが国の、その──なんだこりゃ。チマサ学的なミチから──。
いつの間にか後ろに控えていた秘書の
「な、なんだ、あの原稿は」
「たぶん、〝地政学的な見地〟、じゃないですかね」涼しい顔で貝原がこたえる。
「も、もうダメだ」
──アジアにおける戦争のニョウイをミカするなど、私のコカンにかけてあってはならないと──。
よりによって、コカンのところを強調して翔は読んだ。
「か、貝原──」
「戦争の脅威を看過する、と言いたかったんでしょう」といった。「コカンはきっと
「アホか」
「アホですよ。翔ちゃんですから。あっ、すみません」いつもひと言多い貝原は押し黙る。
収拾のつかない騒ぎになった。閣僚たちは
「オレはもう死にそうだ、貝原」
泰山は青息吐息で、呼吸困難に陥っていた。「ダメだ。もう息ができない。泰山死すとも、自由は死せず──うわっ」
と──そこで目が覚めた。
「夢、か」
全身にべっとりと冷や汗を
「ひでえ夢だな」
次にまたこんな夢を見たら、脳の血管が切れるに違いない。
枕元の時計は午前三時を指していた。水差しからコップ一杯の水を
「いや──夢で良かった」
そう泰山は思い直した。
夢は
そして、悪夢はもう
つづく
作品紹介『民王 シベリアの陰謀』
民王 シベリアの陰謀
著者 池井戸 潤
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
発売日:2021年09月28日
謎のウイルスをぶっ飛ばせ!!
「マドンナ・ウイルス? なんじゃそりゃ」第二次内閣を発足させたばかりの武藤泰山を絶体絶命のピンチが襲う。目玉として指名したマドンナこと高西麗子・環境大臣が、発症すると凶暴化する謎のウイルスに冒され、急速に感染が拡がっているのだ。緊急事態宣言を発令し、終息を図る泰山に、世論の逆風が吹き荒れる。一方、泰山のバカ息子・翔は、仕事で訪れた大学の研究室で「狼男化」した教授に襲われる。マドンナと教授には共通点が……!? 泰山は、翔と秘書の貝原らとともに、ウイルスの謎に迫る!!
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