THE ORAL CIGARETTES 山中拓也フォトエッセイ『他がままに生かされて』
大反響により台湾での翻訳版出版決定!
人気ロックバンド・THE ORAL CIGARETTESのボーカルで、ほぼ全楽曲の作詞・作曲を務めるフロントマン、山中拓也。彼が紡ぐ、人間の本質を表す言葉は、なぜ多くの若者を虜にするのか。そして、いかに生み出されるのか。そんな彼の半生や人生観。過去と未来のこと。今の時代に伝えたいことを綴ったエッセイ『他がままに生かされて』(2021年3月2日発売)が、大反響により台湾での翻訳出版が決定!
それを記念し、特別に第1章「汚れた感情の向こう側」全話を10日間連続で公開中です。
『他がまに生かされて』試し読み#3
逆張り
泣き虫で兄の後ろを追いかけていた、というエピソードから、主体性がまるでない子どもをイメージする人もいるだろう。しかし、面倒くさい性格なもので人と違うことをしていたい、という気持ちは子どもの頃から今まで捨てることなく持っている。小学生の絵画コンクールに出すための絵を描いていたときのことだ。お題は「象」。まわりの友だちが、なんの迷いもなく灰色の絵の具で象を描きはじめる中、僕が手に取ったのは赤と青の絵の具だった。普通なんてつまらない。せっかく自分の好きな色で描ける機会を手放すなんて、僕にはもったいないことのように思えた。背景には象が住んでいそうもない環境を描き込み、その絵は見事入選。しかし、みんなの目に触れることになったとき、僕にかけられた声は《批判》だった。
「赤と青の象なんているわけないやん!」
「なんであんなんが選ばれんねん」
クラス中から、僕の描いた絵は普通ではないと認定されることになった。それでも、僕は構うもんかと思っていた。今ある価値観を壊した先に、自分なりのなにかが生み出せるのではないかというのは常々感じていることだ。自分を型にはめたり、「当たり前」や「常識」の中にいるうちはなにかを創造している気持ちにはなれない。だから、僕は今でも既存の価値観を壊していきたいと思っている。
中学に上がり、美術の授業で絵を描くときには誰にも見られないように、隠れながらひっそりと進めていく。これは、人に見られるのが恥ずかしかったからじゃない。誰かに真似されることが心底嫌だったからだ。仮に、「お前のアイディアええな! 俺もそうしよ」って言われたとしたら、ブチ切れるレベルで許せない。他人の創造力は、自分で考えることを放棄した人間が簡単に触れていいものじゃない。
よく誤解されることだが、影響を受けることと、真似をするというのはまったくの別物だ。僕だってたくさんの人間の影響を受けて育ってきた。親や兄、憧れのアーティストからの影響。誰かの作品を見て表現の幅が広がることは誰にでもある。だけど、それは考えることを止めなかった人だけが広げられる世界のはず。誰かの真似をするというのは思考停止に等しい。一番大事なのは、自分が選んできた自分にしかないオリジナルの影響を、どうミックスし形成するかだ。人と違う道を歩くことは、不安になるし迷子になることもある。だけど、現状維持よりマシじゃないか? 人と逆張りをし続けてきた僕に今あるのは、そういう人間でいられて良かったという感覚だ。
(つづく)
作品紹介・あらすじ
他がままに生かされて
著者:山中拓也
定価:2,090円(本体1,900円+税)
発売日:2021年3月2日
ロックバンド・THE ORAL CIGARETTESで、作品の作詞作曲を手掛けるフロントマン、山中拓也。
彼が紡ぐ、人間の本質を表す言葉は、なぜ多くの若者を虜にするのか。そして、いかに生み出されるのか。
生死をさまよった病、愛する人の裏切り、声を失ったポリープ手術、友人の死etc.
そこには数多の挫折や失敗があり、周りにはいつも支えてくれた家族や仲間、恩人たちの存在があった。
山中拓也は、これまでもこれからも、他に生かされて我がままに生きていく。
そんな彼の半生や人生観。過去と未来のこと。今の時代に伝えたいことを綴ったエッセイ。
故郷・奈良の思い出の地巡り、ドイツや国内で撮影した作品写真、貴重なレコーディング風景など撮り下ろし写真も多数収録する。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322009000608/
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