menu
menu

試し読み

“霊が視える”聖女×皇子疑惑のある騎士。運命の出会いが神殿に波乱を呼ぶ!『聖女ヴィクトリアの考察』試し読み#2

8月24日に発売される『聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語』。
“霊が視える”聖女と、皇子疑惑が持ち上がった辺境の騎士が、帝位継承権をめぐる王宮の謎を解き明かすファンタジーです。
「ファンタジー世界ならではの謎解き」が評価され、第6回角川文庫キャラクター小説大賞〈奨励賞〉受賞に至りました。
ファンタジー好き、ミステリ好きの期待に応える注目作、特別に試し読みをお届けします!

『聖女ヴィクトリアの考察』試し読み#2

「な、何者か」
 兵の一人が青年に問う。青年は答えず、眉根を寄せて首を振った。
「俺の身元を確かめる前に、まずは彼女から手を離せ。抵抗の意のない婦女子を大の男が寄ってたかって取り押さえて、恥ずかしいとは思わないのか」
「む……」
 兵たちはびくりと肩を震わせたのち、顔を見合わせる。しばらく逡巡するような間があったが、やがておずおずと私から手を離した。
 圧迫感から解放されて、ゆっくりと体を起こす。すると青年が更に近づいて、こちらに手を差し伸べてきた。
「災難だったな。怪我はないか」
「え? お、お陰様で」
 つい反射的に、青年の手を取ってしまう。そのままひょい、と引き起こされて、私はしばらく彼の姿をぽかんと眺めた。
 見覚えのない人物だった。髪は錆色さびいろで、肌は日に焼けている。体軀たいくはがっしりとしてたくましく、背丈も見上げるほどに高い。年は、二十前後といったところだろうか。衣服は飾り気のない旅装束で、腰元に剣を佩いており──そして何故か、全身ボロボロだった。
 何者かは分からないけれど、少なくとも神殿関係者ではない。つまりは、全くの部外者である。それなのに、この青年ときたら自分がここにいるのは当たり前、と言わんばかりに堂々としていて、まるで物怖じする様子を見せない。そんな彼が発する得体の知れない迫力にすっかり圧倒されて、周囲の神官たちは言葉を失っていた。
 それをいいことに、青年は不敵な笑みをにかりと浮かべて名乗りを上げる。
「俺はエデルハイド帝国グレイン子爵に仕える騎士、アドラスだ。この度は物見の聖女殿にご助力を賜りたく、この地に参った」
 よく通る声だった。周囲に語りかけるように、青年は議場内を見渡す。
「経緯は聞かせてもらった。俺は部外者ゆえ、彼女にかけられた容疑については言及を控えよう。能力不十分であるため称号を剝奪するという話も、まあ分からなくもない。だが、どうして本人の主張を聞きもせず、彼女を裁こうとする? これでは弾劾というより迫害ではないか。──違うか?」
 青年はきょろきょろと瞳を動かして、目についたミアに答えを求めた。啞然あぜんとしていたミアは、急に話を振られて「え、あ、それは」とはっきりしない言葉を繰り返す。
 それを勝手に肯定とみなしたらしい。青年は満足そうに「な、そうだろう」とうなずいて、オルタナ様たち聖女に視線を滑らせた。
「というわけで、物見の聖女の追放は保留だ。ひとまず彼女には、俺の依頼を受けてもらおう。あなた方は、その結果を見て彼女に聖女の資格があるか否かを改めて判断すればいい。誰も損をしない話だと思うが、どうだ」
 この人は何を言っているのだろう。
 ふてぶてしさ極まりない闖入ちんにゆう者の発言に、私は開いた口が塞がらない。それは他の神官や聖女たちも同じであるようで、誰もが呆けたように立ち尽くしていた。
「……警備は何をやっている」
 妙な空気に様変わりした議場の中で、次に声を発したのはオルタナ様だった。
 不機嫌そうに𠮟責され、兵たちは慌てて青年を摑みにかかる。四方から迫る手に少しも怯むことなく、青年は不満そうに肩をすくめた。
「おいおい、ここはアウレスタ神殿だろう。悩める迷い子には神の御使みつかいが救いの手を差し伸べてくれるのではないのか」
「日々大勢の信徒が救いを求めてこの地を訪れているというのに、正規の手順も踏まぬ無法者の願いを優先する謂れはない」
 鬱陶しそうにオルタナ様が返せば、「ほう」と青年は口の端を持ち上げる。
「主席聖女殿は法を重んじるか。ならば、なおさら物見の聖女への処遇は改めた方がいいと思うぞ。それとも神殿の法は、弁護の機会も与えずに罪人をむちつことを良しとしているのか? これを諸国が知ったらどう思われるだろうな」
 思わぬ反撃だったのか、これまで仮面のように動かなかったオルタナ様の表情が、ぴくりと引きつった。彼女は眉間に皺を寄せると、神官服を翻して青年に背を向ける。
「つまみだせ」
「はっ!」
 更に兵が数を増やして、青年を囲んだ。数の暴力には抗えないらしく、「おいおいそこは摑むなよ」と文句を垂れながら、彼は荷物のように運ばれて行く。
 静かになった頃にはオルタナ様をはじめ列席していた聖女たちは姿を消しており、状況を飲み込めぬ私とそのほか神官たちだけが、議場に取り残されているのだった。
「……あれ、あなたの知り合い?」
 同じく置き去りになったミアが、ぼそりと訊ねる。これに私は首を振った。
「ううん、知らない人」

 ──そう、私は知らなかった。これが私にとって、運命の出会いであったことを。

(つづく)

『聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語』著者 春間 タツキ(角川文庫)



聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語
著者 春間 タツキ
定価: 704円(本体640円+税)

王宮の謎を聖女が解き明かす!大注目の謎解きファンタジー。
霊が視える少女ヴィクトリアは、平和を司る〈アウレスタ神殿〉の聖女のひとり。しかし能力を疑われ、追放を言い渡される。そんな彼女の前に現れたのは、辺境の騎士アドラス。「俺が“皇子ではない”ことを君の力で証明してほしい」この奇妙な依頼から、ヴィクトリアはアドラスと共に彼の故郷へ向かい、出生の秘密を調べ始めるが、それは陰謀の絡む帝位継承争いの幕開けだった。皇帝妃が遺した手紙、20年前に殺された皇子――王宮の謎を聖女が解き明かすファンタジー!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322103000576/
amazonページはこちら


紹介した書籍

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2021年9月号

8月25日 発売

怪と幽

最新号
Vol.008

8月30日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

テスカトリポカ

著者 佐藤究

2

熱風団地

著者 大沢在昌

3

六人の嘘つきな大学生

著者 浅倉秋成

4

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門

著者 森岡毅

5

怪と幽 vol.008 2021年9月

著者 京極夏彦 著者 小野不由美 著者 有栖川有栖 著者 近藤史恵 著者 山白朝子 著者 澤村伊智 著者 荒俣宏 著者 諸星大二郎 著者 高橋葉介 著者 押切蓮介 著者 東雅夫 著者 楳図かずお

6

黒牢城

著者 米澤穂信

2021年9月12日 -9月19日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

アクセスランキング

新着コンテンツ

TOP