『エヴァンゲリオン』など大ヒットアニメで活躍!大人気声優・緒方恵美初の自伝エッセイ
『新世紀エヴァンゲリオン』碇シンジ、『幽☆遊☆白書』蔵馬、『美少女戦士セーラームーン』天王はるか/セーラーウラヌス、『カードキャプターさくら』月城雪兎/ユエ、『遊☆戯☆王』武藤遊戯、『ダンガンロンパ』苗木誠/狛枝凪斗、『地縛少年花子くん』花子くん/つかさ、etc.
数々の人気作/役を演じてきた大人気声優・緒方恵美さん。
初の自伝エッセイ『再生(仮)』(さいせい かっこかり)が2021年4月28日、発売となります。
本書で初めて明かされるエピソードもたっぷり。
発売に先駆けて、試し読みを公開いたします。
2日目の試し読みは、緒方さんの声優デビュー作にして大人気作、『幽☆遊☆白書』蔵馬役にまつわる驚きのエピソード。
『再生(仮)』書誌情報はこちら。予約はお早めに!
https://www.kadokawa.co.jp/product/321903000423/
緒方恵美『再生(仮)』試し読み#2
(「第2章 人と作品に育てられて」より)
「綺麗な薔薇には棘がある」~声優デビュー作『幽☆遊☆白書』
◆「大勘違い」オーディション!
青二塾を卒業して最初の夏、まだ一本も仕事をしていなかった頃。アニメ『幽☆遊☆白書』のオーディションがありました。
蔵馬役の応募要項には、「宝塚の男役のような華のある声質で、高校生に聞こえる人なら男女どちらでもOK」とありました。それで事務所から「滅多にない募集内容。まだ新人だし受かるのは難しいと思うけど、うちの事務所で該当するのは君くらいだから」と連絡が来てオーディションを受けさせてもらえることに。それを聞いて私は「えっ宝塚? 宝塚のような芝居を求めているってこと?」と……今思うと「何聞いてんだよ!」と驚く勘違い。初めてのオーディションでしたしね……緊張してたんですね(笑)。
実は私、ミュージカル俳優の卵時代に、東京宝塚劇場で劇場案内のアルバイトをしていた時期がありました。帝国劇場のバイト募集に応募したら宝塚に行って欲しいと言われてという、またもや偶然の流れだったのですが、あの時毎日聞き続けた、独特の抑揚のあるセリフ回しが求められているのかと思い込んでしまったのです。それで、トップスターによる開演アナウンス「皆さま、本日はようこそ宝塚へ! 雪組の◯◯です」を思い出し、オーディションでたっぷりした感じで、「蔵馬だ……それはどうかな! 飛影……ッ!」みたいに朗々とお芝居をしてしまったんです(笑)。
終わった後にマネージャーに話したら「ばか、そうじゃない!」と?られ、はぁぁー! 頭を抱えました。「男役を演ると華のある声質」――言っていただいた通りの役に出会えたのに。滅多にない募集内容って言われたのに、そんな役当分出会えないのにアホかと! めちゃめちゃ落ち込みました。……なのに。
オーディション合格の知らせが!
信じられない……。電話を切っても、しばらく呆然としていました。
のちに私に決まった理由を、『幽☆遊☆白書』の監督、阿部記之さんからうかがいました。「正直ね、オーディションの芝居は変だった(笑)。何か勘違いしているんだろうなと。だけど、マイクを通して聴こえてきた『青二プロダクション、緒方恵美です』という地の挨拶の声に、ミキシングルームにいた全員が『蔵馬だ!』とザワッとしたんだよ」。
最終的に、芝居に癖があるようだけど、僕たちが求めてた声質で芝居勘はありそうだから、僕らが育てていけばいいだろうという結論になったと。そして、ド新人の私が一番最初に決まってしまったので、逆にそれ以外のメインキャストは、ある程度経験値のある若手や中堅で固めることにしたとのことでした。ありがたい……本当に(笑)。
こうして声優・緒方恵美のデビュー作は『幽☆遊☆白書』の蔵馬になりました。同時期に受けた『ツヨシしっかりしなさい』のセミレギュラーの少年・静雄役もその後に決まり、いきなり2本のアニメレギュラー! 夢のような出来事でした。
声変わり以降の男子高校生役を女性声優が最初から演じるケースは、ほぼ業界初めて。チャレンジし、私に預けてくださった幽白チームの皆様には本当に感謝しています。
そして、これがすべての「始まり」でした。
◆口パクよりハート─―すべては『幽白』から。
私にとって初めてのアフレコ現場のひとつであり、初レギュラー・初メインキャストの『幽☆遊☆白書』。今に至るすべては幽白に教えてもらいました。
まずはアフレコでのマイクへの入り方。蔵馬の初登場は第6話で、3人組の妖怪のひとりとして姿を見せます。現場にはマイクが3本あり、1本は主役用。あとの人は、それ以外のマイクに入るのが慣しです。2本しかマイクがないところで、剛鬼役の若本規夫さんが「ウオーッ!」と腕を振り上げながら芝居をされ、飛影役の檜山修之くんも負けじと「ハァーッ!」。ふたりの動きながらのすごい気迫に圧倒され、どちらのマイクに入ったらいいんだろうとオロオロ。最初のテストでは喋れず、スゴスゴと席に戻ってしまいました。そうしたら後ろから蔵馬の母役の滝沢久美子さんが、「押しのけて入るのよ!」と声をかけてくださり、若本さんにも「来いッ!」と胸を叩かれ! おそるおそる、「すみません、失礼します……」。ようやっとマイクに。そんなほろ苦デビュー(笑)。
桑原役の千葉繁さんは毎回大絶叫! しょっちゅう酸欠を起こされていました。蔵馬はクールな役だったので、冒頭では叫ぶシーンは少なかったけど、そのくらいの気迫を持ってやらねばならぬと気持ちが引きしまりました。暗黒武術会編になると蔵馬も叫ぶシーンが増えて、私もグラッと酸欠で倒れそうになり始め、遠のく意識の中、少しだけ千葉さんに近づけたかなあとニヤつくヤバイ奴と化してたり(笑)。
中でももちろん大勉強になったのは、音響監督の水本完さん。とても厳しく指導される方でした。若手だけではなく、先輩方に対しても容赦なく「今の芝居、自分が気持ちよくなっちゃったでしょう。格好いい〝雰囲気〟でしゃべらないで」と平気で口にされるのです。先輩たちがあれだけ言われるのだから、自分はどうしたら……と震えていたのですが、私に言われるのはいつも同じ言葉でした。
「口パクなんて合ってなくていい。ハートに嘘のない芝居をしなさい」
いえもちろん、口は合わせなくてはいけませんよ?(笑) 声優ですから。でも合わせに行くことより心の方が大事だと、何度も何度も教えてくださった。実際、水本さんに響く芝居ができた時は、「今の芝居良かった。おい、監督、口パクの方を合わせてくれ」とおっしゃり、「えええ!」と困惑しつつも監督やプロデューサーが応じてくださって。……これは他の現場では、本当にありえないことでした。
デジタル処理になっている今ならまだしも、当時はアナログ時代。もしも口パクを直すとなると、セル画を描き直して撮影し直して……と大変な作業になってしまう。実際に絵を変えることは難しいという事情は織り込み済みで、それでも水本さんは、そして結果的に監督始め皆さんが、「生きた芝居」をすることを望んでくださった。ちょっと器用だったり、慣れてくれば口パクを合わせる技術は身についていきます。でも「本物の芝居」は、合わせに行き始めるとなかなか意識するのが難しくなってしまう。作画の皆様には本当にご迷惑をかけてしまったと思うのですが、その大事なことを、チーム皆さんで新人に教え、支えてくださったのだと思います。
蔵馬の演技に関しては、当時はただただ必死でした。もちろん精一杯頑張ったつもりでしたが、自分には表現しきれていないという想いが、常に心のどこかにあり続けていました。蔵馬は、男子高校生であっても、中身は何百年も生きている妖怪で、人間として練れている老獪な部分がある。そうした人間像はまだ若かった自分には遠くて、彼の性格や生い立ちを一生懸命考えて芝居に落とし込んでも、なかなか届かない。本当ならもっと余裕がある、ベテランの人がやらなければいけない役だったのではないかという問いが頭をよぎっては、払拭するように没入していました。
近年、『幽☆遊☆白書』アニメ化25周年記念ということで新作が作られ、再び蔵馬を演じる機会をいただきました。台本を手に、映像に向かって口を開いた瞬間――初めて、ああ、蔵馬だ、と。地に足がついた、自分の演りたかった蔵馬が演じられた気がしました。
なりたくてなりたくて、届かなかった蔵馬。頑張ってはいたけど、これでいいのだろうかと悩みながら演じた日から25年の月日を経て、初めて、心の底までストンと落ちてきた。それはそうですよね。今、この歳で、まだ中学生や高校生を演じている私自身が、「長く生きている妖怪」みたいなもんですから(笑)。
キャスト変更もなく演じさせていただけたこと、「ならせて」いただけたこと。本当に感謝です。
◆震えながら上がった初イベントツアーは……
92年10月に放送がスタートした『幽☆遊☆白書』ですが、しばらく経って、初めてのイベントがありました。初イベントというだけでも緊張するのですが、何より『幽☆遊☆白書』のお客さんに会うのがとてもこわかった。というのも、たくさんの先輩方に言われていたから。「心の準備をしておけ」と。
(この続きは、4月28日発売の『再生(仮)』書籍でお楽しみください)
作品情報 『再生(仮)』緒方恵美
再生(仮)
著者 緒方 恵美
定価: 1,870円(本体1,700円+税)
声優・緒方恵美、初の自伝本!生誕から現在までのトライ&エラーや作品秘話
声優・緒方恵美、初の自伝本発売!
『新世紀エヴァンゲリオン』碇シンジ、
『幽☆遊☆白書』蔵馬、
『美少女戦士セーラームーン』天王はるか/セーラーウラヌス、
『カードキャプターさくら』月城雪兎/ユエ、
『遊☆戯☆王』武藤遊戯、
『ダンガンロンパ』苗木誠/狛枝凪斗、
『地縛少年花子くん』花子くん/つかさ、etc.
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