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【話題作再掲】若々しい母と美少年の、恋人のような関係。その異様な団らんとは? 怒濤のどんでん返しミステリー!櫛木理宇『虜囚の犬』#23

カドブンで好評をいただいている、ミステリー『虜囚の犬』。
7月9日の書籍発売にあたり、公開期間が終了した物語冒頭を「もう一度読みたい!」、「ためし読みしてみたい」という声にお応えして、集中再掲載を実施します!
※作品の感想をツイートしていただいた方に、サイン本のプレゼント企画実施中。
(応募要項は記事末尾をご覧ください)

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※リンクはページ下の「おすすめ記事」にもあります。

 ◆ ◆ ◆

>>前話を読む

      7

 夕飯を終え、かいひろの自室へと向かった。

 未尋の部屋は三階にあった。十二じようほどの広さで、セミダブルのベッドと一人掛けのソファ、システムデスク、そして四十二型のテレビが置かれている。寿の趣味なのか、家具はホワイトオークで統一されていた。

つきくんって、おとなしいんだな」

 海斗は言った。

「女の子みたいにわいいしさ。てっきり、もっとうるさい子かと思った」

「充分うるせえよ」未尋は吐き捨てた。

「今日はお客が来てたから、猫かぶってたんだ。普段は甘えてばっかで、うざいやつだよ。あいつよりおとなしい子なんていくらでもいる」

「そうかなあ」

「まあ海斗は初対面だからな」未尋は肩をすくめて、

「いまよりうるさくなったら、殺そうと思ってる」

 さらりと言った。猫のように優雅な仕草で、布張りのソファに腰をおろす。

「映画でもるか? あ、そういや、こないだあげた動画どうした?」

 例の監禁もののポルノのことだ。海斗はうなずいて、

「観たよ、よかった。あの女優、熱演だったな」

「ヌいたか?」

「二回くらい」

「ははっ」海斗の返答に、未尋はのけぞって笑った。

「ほんと海斗はいいよな。こういう場面で気取んないとこ、ほんといいよ。馬鹿は『ああいう暴力的なのは、ちょっと』なんていい子ぶったり、かと思えば『あの程度じゃヌけねえよ、ガキじゃあるまいし』なんてイキがってみせる。どっちも馬鹿でくそだ。欲望に正直になれないやつは、最低だ」

 言い終えてすぐ、未尋は顔からすっと笑みを消した。

 海斗は一瞬たじろいだ。なにか機嫌をそこねる態度をしてしまっただろうか。しかし立ちあがった未尋は、海斗には目もくれなかった。カーテンを引き開けて外を見る。音高く舌打ちする。

「……ったく、うるせえな」

「え?」

「犬だよ、犬。さっきからずっと、きゃんきゃんえてやがるだろ。糞が。うるせえったらねえよ」

 言われてみれば、近所から犬の吠え声が聞こえてくる。未尋がまた舌打ちして、

「通り一本離れた家で、先週から飼いはじめたんだ。どこのペットショップから買ったんだか、無駄吠えの癖をまるで矯正してない。散歩もさせてねえんだろうな。朝から晩まで、のべつまくなしに吠えてやがる」

 窓を拳でたたいた。ガラスが振動する。

「ああいうのも、糞だ。飼い主が糞なんだ。犬にはしつけが必要なのに。甘やかすのは犬のためにならない。飼い主失格だ」

 うなるように言う未尋の横に、海斗は並んで立った。

 ガラス越しに、眼下の近隣を眺める。まわりは二階建てばかりだから、庭ごと屋根を見下ろすかたちになる。

 月の明るい夜だった。どこかで犬が、短く高く吠えつづけている。庭につながれているのだろうか。子犬の声に聞こえた。思わず首を伸ばす。

 電柱の脇に、男が立っていた。

 ──あれ?

 海斗は眉根を寄せた。

 この高さから、男の顔までは見えない。でもキャメルカラーのナイロンジャケットと、黒のワークパンツに見覚えがある気がしたのだ。

 ──そうだ。今日、この家に入るときも見かけたような。

 だが自信はなかった。

 気のせいかな、と内心でかぶりを振る。

 あんなかつこうの男はどこにでもいる。体形だって特徴がない。夜の散歩中にたまたま立ち止まったか、家では煙草たばこを吸えないホタル族かもしれない。

 万が一泥棒だとしたって、はし家の生活水準なら警備サービス会社と契約しているはずだ。海斗が心配するすじあいはなかった。

「海斗、なに観る? エロいの観るか?」

 未尋の声に、海斗は振りかえった。

「エロいのもいいけど、おれマーベル系の映画が観たいな。ほら『スパイダーマン』とか『デッドプール』とかのあれ」

 犬は、まだ吠えつづけていた。

(このつづきは本書でお楽しみください)



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