テレビ東京系で放送中のドラマ「リーガル・ハート~いのちの再建弁護士~」。
反町隆史さん演じる再建弁護士・村越誠一が、倒産の危機に瀕した中小企業を救うことに心血を注ぐ、熱きヒューマンドラマです。
カドブンではドラマの放送開始を記念して、現役弁護士・村松謙一(構成協力:石村博子)による原作『いのちの再建弁護士 会社と家族を生き返らせる』(角川文庫)の試し読みを実施。
第1回では「まえがき」を公開いたします。
まえがき──倒産は、命の問題だ。企業救済は、人間の尊厳を守ることだ
二〇一六年、八一六四件。
二〇一七年、八三七六件。
これは帝国データバンクによる、倒産した会社の数である。
多くの人にとって、それは単なる数の塊にすぎないだろう。
だが、実はその一つひとつの背後には、生きることをかけたドラマが存在している。
そして数字のなかには、やり方次第で、「破綻懸念先」から「正常先」へと立ち直った会社も多くあることを思うと、無念でならない。
私は企業再建を専門とする弁護士である。
企業再建弁護士とは、倒産の危機に瀕している会社を、法律による防御と改革を行うことによって蘇らせる存在である。企業再建を専門としている弁護士は全国でも数十人ほどしかいないと言われている。
四〇年近い活動のなかで、ゼネコンや宅配会社、個人商店まで二〇〇社以上の会社を蘇らせてきた。
その圧倒的多数が、助かる見込みはどこにもないとすべての人に見放され、息も絶え絶えに私のところに駆け込んできたケースである。
法律を駆使した経営改革を打ち出すことで彼らに生きる勇気と希望を与え、会社の復興と同時に多くの人々が幸せになる道筋をつくるのが、私に課せられた「使命」である。
不況が続くなか、ダメな会社はどんどん潰した方がいいという見解がある。
それは一〇〇%間違いであると私は思っている。
会社は潰してはいけない。
なぜなら会社は、人と人生が詰まったひとつの有機体であるからだ。そこにいる一人ひとりが生きている。人生の営みがある。従業員には家族があり、その子どもたちが育っている。
ひとつの会社の倒産は、彼らの暮らしと心の破綻を起こし、さらに関係先の人々にも犠牲を強いることになる。
年間二万人を超える自殺者のうち、死亡動機で最も多いのは「健康問題」であるが、次が「経済・生活問題」で、このために命を絶つ人が未だに約三五〇〇人もいるという現実は、私たちに、重大なことを伝えている。
倒産とは、命の問題なのである。
実際、私の顧問先の社長が自ら命を絶つという事件も体験した。
だからこそ、会社は簡単に潰してしまうのではなく、再生させることに知恵と力を注ぐべきである。
万策尽きたと皆から言われた案件でも、諦めてはいけない。一%の可能性があるのなら、それに賭けて対処していかなくてはならない。
心肺停止状態の相手には、息を吹き返すまで心臓マッサージを続けていく。
目の前で苦しみながらも生きようとしている人を救うのが、私に与えられた役割である。
一般に企業の再生は、数字であり、技術であり、駆け引きであるように思われている。しかし、ひとりの人間としての経営者に焦点を合わせれば、そこには内面の闘いが繰り広げられていることにつきあたる。
私は企業再建の作業を通して、多くの人々が新たな価値観を見出し、会社と人生を立て直す現場に立ち会ってきた。どん底から這い上がり、もう一度生きようとするプロセスは、人生の深さと尊さを教えてくれた。企業の救済は人間の尊厳を守ることであり、それは再生の意義を十分に伝えてくれるものである。
その意味で、私が本当に取り組んでいるのは「人間救済」「心の救済」「家族の救済」なのである。
専門的な立場から言うと、企業再建の法的テクニックは複雑で、再生スキームなども一件一件が違っている。当然、私なりの〝秘策〟もある。今回の本ではそうした技術面の解説は最小限にし、私自身の人生の軌跡と、企業再建に込めた理念や人間観を語っていくことに重きを置いた。
シンプルな正義感から歩き始めた私の道のりは、娘の突然の死を境に、一時全く中断している。その間、死と隣り合わせの日々を送り、二度と立ち上がることはないだろうという絶望の淵をさまよった。その後多くの人の助けによってそこから這い上がり、もう一度再建弁護士として苦境の人たちと向き合うことになったとき、最後に残るものは「命」であることを深く知ることになった。
そこから私にとって企業救済は、命の救済と同等なものになった。
金融機関との交渉も、債権者との話し合いも、経営者への指導も、あらゆる活動の根底に流れているのは、命を救う覚悟と使命である。
世界不況、リーマン・ショック、無縁社会……など負のスパイラルが続き、人々の心は不安に揺れている。三・一一、原発事故の衝撃は、日本中に喪失感を広げている。
今こそ、生きていることの意義、命の尊さを見直してほしいと思う。
そして、人と人とのつながり、〝絆〟に思いを至らせてほしい。
私たちは生きている限り、再び立ち上がり、その命を輝かすことができるのだから。
弁護士 村松謙一
>>試し読み第2回め以降は、2章「ふたつの死が私を変え、支えている」を公開します。
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