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◎第23回電撃小説大賞《大賞》受賞作!
絶賛公開中! 映画『君は月夜に光り輝く』。
映画の公開を記念して、原作小説の冒頭約80ページを7日連続で大公開します!
命の輝きが消えるその瞬間。少女が託した最期の願いとは――。
(第1回から読む)
<<第4回へ
購入したスマートフォンを持っていくと、まみずはかなり大げさに喜んでみせた。
「やった。ついに私も文明開化だ」
僕は彼女にそれを手渡す前に、ほとんど恨みごとのように徹夜した苦労などを聞かせてやろうとした。でも僕が話している途中で、まみずはスマートフォンの包みを開け始めた。
「おい……徹夜で並ぶことに興味があったんじゃなくて、単にスマホが欲しかっただけじゃないのか」
「そんなことないよ?」
まみずはニコニコとした顔でそう言って、スマホを取り出して目の前に掲げた。「わー」と感嘆するように声を漏らしながら、目を輝かせた。
「これで卓也くんと色々連絡が取りやすくなるね」
嬉しそうに言うまみずを見ていたら、僕はすっかり毒気を抜かれてしまった。
それからまみずに頼まれて、しばらく基本的な操作を教えてやり、一応僕のアドレスを登録しておいた。
後日、しばらくして、彼女が自分の母親に頼んでいた回線契約が終わり、まみずのスマホはやっとネットに繫がったらしい。早速メッセージが送られてきた。
>ありがとう
ただそれだけ書かれていた。
もしかして、直接言うのが照れくさかったんだろうか。僕はさらっと「どういたしまして」とだけ返信した。
学校の昼休み、香山が何故かオセロを持ってきて、飯食いながら一緒にやろうと言い出した。僕が断ろうとする前に、香山はさっと前の奴の机を二つくっつけて、オセロと自分の弁当を広げ始めてしまった。
結局、僕は事前に買ってあったパンを食べながら、仕方なく香山の相手をした。
「岡田。初恋っていつだよ?」
香山が、オセロしながら、突然そんなことを聞いてきた。
「小四。隣の席の女子」
「オレは小六。それでお前、どうなった?」
顔もおぼろげにしか思い出せなかった。相手が今どこで何をしてるのかもわからない。
「まぁ、どうでもよくなったな」
別に何か特別アプローチしたり告ったりしたこともなく、クラス替えとともに関係性も淡い恋心も自然消滅した。でも初恋なんて、大体みんなそんなもんだろうと思う。
「オレさ、些細なことってそんなに変わらないと思うんだよな。好きな食べ物とか、飯の食い方とか、鼻かむときティッシュ何枚取るかとか」
香山は、意外に器用な箸使いで、弁当のおかずを口に運びながら喋り続けた。
「一枚だろ」
「オレは二枚」
香山が角を取った。僕の白石が一斉にひっくり返されていった。
「でも、大事な気持ちほど、案外オセロみたいに簡単にひっくり返っていくんじゃねーかって思うんだよ」
と香山はよくわからないことを言った。
「でもオレはさ、そういうの本当は嫌なんだ」
ときどき、彼はそういう喋り方をした。つまり、何が言いたいのかさっぱりわからない。
「……そういや最近、お前に言われたとおり、渡良瀬まみずと会ってきたぞ」
僕がそう言った瞬間、香山の箸を持つ手が一瞬止まった。それから、彼はじっと僕の顔を見た。
「なんだよ?」
「……それで?」
「まぁ、わりと元気だよな。詳しいことは知らないけど、少なくとも、当分死にそうにないよ」
色々説明しようかと考えたけど、やっぱりやめにした。彼女と、それからも何度も会っていることとか、死ぬまでにしたいことリストの話とか。でも、勝手にペラペラと人に話していいことなのか、よくわからなかった。
それに、僕をまみずに会いに行かせた真意を、隠し続けている香山に対して、こっちは少しムカついていた。話す義理もないと思った。第一、こんな微妙にわけのわからない話を説明するのが、面倒臭かったというのもあった。
「香山、何か聞きたいこととかあるか?」
「じゃあ、スリーサイズ」
「自分で聞け」
オセロはどうやら香山の勝ちだった。香山は自分から始めといて途中で興味を失ったらしく、最後まで打つのを放棄して立ち上がった。
「会いに行かなくていいのか?」
僕は立ち去ろうとした香山に声をかけた。
「……今はいいよ」
香山は少し考えるように沈黙してから、そう言った。それから「今、女には不自由してないからな」と付け足した。
「お前、手でも出す気でいたのかよ」
僕は笑いながら言った。さすがに冗談だと思ったからだ。
でも香山は軽口一つ返さず、しばらく黙ってじっと僕を見てから、結局はそれ以上何も言わずに自分の席に戻ってしまった。
なんなんだろうな、と僕はいよいよ不思議に思った。
>>第6回へつづく
>>佐野徹夜『君は月夜に光り輝く』特設サイト
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