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池上彰氏、解説担当! コロナ禍で「孤独」を感じているすべてに人に届けたい。『生きるために本当に大切なこと』2月25日発売!

僕たちは、未来をどう生きるか。――感動の人生哲学!

3.11で卒業式が中止になった生徒たちへ贈られたメッセージは80万回以上の接続を記録。若者に勇気を与えた校長(当時)として人気の著者・渡辺憲司(現・立教大学名誉教授、自由学園最高学部長、元立教新座中学・高等学校校長)の教師生活51年の最終講義。混迷の時代に、生きることの意味を問う、多くの気づきと自信を与えてくれる人生哲学書。
2月25日(木)の発売に先駆けて【おわりに池上彰さんによる解説の一部】をご紹介します。


書影

渡辺憲司『生きるために本当に大切なこと』
定価: 770円(本体700円+税)
※画像タップでAmazonページに移動します。


<おわりに>より

(前略)東日本大震災、殊に福島原子力発電所が引き起こした〈悲惨〉は、私の社会への関わり、教師としての視座を変えた。相変わらず学校帰りの立ち飲みは続き、生徒から冷やされたりしたが、何としてでも、彼らに純粋で真っ正直な直向きな心を持って欲しいと強く感じるようになった。相手がどんなに大きな強い相手でも、自分が小さなか弱い存在であろうとも、体当たりでぶつかって行って欲しいと思った。
 ピート・ハミルは、ベトナム戦争に土足で踏み込んだアメリカの権威に正面からぶつかったジャーナリストだ。山田洋次監督の映画「幸福の黄色いハンカチ」の元になった話も書いた。川本三郎は、コラムを集めた「イラショナル・レイビンクス」(理性のかけらもないたわごと)の解説で、「ピート・ハミルの根底にあるのは、この「男の子」としての、「兄」としての、心やさしい怒りなのだ。温かい正義感なのだ。それはシンプルであればあるほど胸を打つ。「男の子」はやはりシニカルでいたり、斜に構えてばかりいてはダメなのだ。怒るべきところできちんと怒らなくては、それはもう「男の子」ではない」と記している。
 校長を辞した後一五年、自由学園最高学部長に転じた。優秀な人材を輩出してきた、キリスト教教育を基盤にヒューマン精神を謳うたう学園だ。フランク・ロイド・ライトの自然との調和の精神を引き継ぐキャンパスを持つ、学生数約一〇〇人、教員数八〇人ほどの小さな贅沢な大学だ。ここで本物の教育とは何かを問われ続けた。そして退職までの五年間一七〇回を超すブログ「時に海を見よ その後」を書き記した。本書の多くの章はそのブログから生まれた。殊に、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言発令の直前、二〇年の二月二九日に記した第145回自由学園最高学部長ブログ「今本当のやさしさが問われている。」(本書所収)は、友人による英語訳も掲載され、世界中の多くの人に読んでいただくことができた。今コロナ禍で多くの人が苦しみの中にあり、混迷も深まっている。しかしこの時を、如何に乗り越えるかが、すべての人に問われている。書名の「生きるために本当に大切なこと」という問いかけは、今、コロナ禍であるからこそ、すべての人が問い続けなければならないことだ。もちろん安易な回答がここにあるわけではない。しかし、その問いかけを大切に抱え持ち前へ進まなければならないことは確かだ。
 書名に「大切」の文言を入れてもらった。キリシタン時代に宣教師たちが、聖書の「愛」の言葉の翻訳に苦労し、「大切」という言葉を使ったことを思い出したからだ。『日本国語大辞典』の「御大切」の項には、「近代になってから「愛」という語で表わすようになった心の動きをキリシタン文学でいう」と解説もある。「愛」以前、日本では「大切」という言葉が一般的であった。書名は「生きるための本当の愛とは何か」と言い換えてもいいかもしれない。しかし、それではちょっと面はゆい。本書をきっかけに、身近な仲間に「それが大切だよ」と語りかけることができたらと思う。
 ピート・ハミルは、昨年八月、八五歳で亡くなった。本書をもちろん若者に読んでもらいたい。そしてまた、ハミルへの哀悼を、一九六〇年代後半に青春を送った人たちと連帯し、頑なと評されようが、老人なるがゆえに持ち得る、拘束を離れた自由を希求し、理念を重んじる勇気の燃えカスに火をつけたい。残り少ない人生で今一度研究中心の生活に戻り、私の中で中途半端に置かれたままの江戸の遊女たちの声に耳を傾け、前に進みたいと思う。
 教師生活五一年。今年で退職の時を迎える。本書は、我儘気放埒な吞兵衛教師を支えてくれた多くの教え子たちへの最終講義でもある。
「諸君ありがとう」

<解説>より

 本書を読めばわかるように、渡辺氏は敬虔なクリスチャンです。聖書からの引用が随所に見られますが、「そうか、聖書には、こんなメッセージが込められていたのか」と再発見の連続でした。 
 一切の怯懦(きょうだ)を排し、孤独を愛し、人々を愛する。こんな素敵な先生の教えを受けた人たちの、なんと幸せなことよ。
 いまさら生徒にはなれませんが、本書を読むことで、本人の謦咳(けいがい)に接することは可能なはずです。
 若い人は、新たな学びとして、昔若かった人は、学び直しとして読んでいただきたい。君は海を見ましたか。

池上彰(ジャーナリスト)

書誌情報

生きるために本当に大切なこと
著者:渡辺憲司
発売:2021年2月25日(木)※電子書籍同日配信予定
定価:本体700円+税
体裁:文庫版
頁数:240頁
装画:坂之上正久
装丁:アルビレオ
ISBN:9784041110621
発行:株式会社KADOKAWA
初出: 著者ブログ「自由学園再校学部学部長ブログ」 
https://www.jiyu.ac.jp/college/blog/ga/65171
詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000447/

著者プロフィール

渡辺憲司(わたなべ けんじ)
1944年函館市生まれ。立教大学大学院博士課程修了。横浜市立横浜商業高等学校定時制教諭、私立武蔵中学校高等学校教諭、梅光女学院大学短期大学部・文学部教授等を経て、2010年8月より立教新座中学校高等学校校長。専門は日本近世文学。著書に『近世大名文芸圏研究』『江戸遊里盛衰記』『新版色道大鏡』等がある。現在、自由学園最高学部学部長。


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