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試し読み

【新連載試し読み 中山七里「バンクハザードにようこそ」】嵌められた友の仇を討つ、知的で痛快な復讐譚!

4/10(日)より配信中の「文芸カドカワ」2019年5月号では、中山七里さんの新連載「バンクハザードにようこそ」がスタート!
カドブンではこの新連載の試し読みを公開いたします。

箱根銀行に勤める親友・燎原が自殺したとの報に驚いた司法書士の東雲しののめは、燎原りょうげんの自宅に駆けつける。彼が自殺したとは信じられないが――。

 一 Money,Money,Money


    1

「あたし、借金返したくないんです」
 開口一番の言葉がそれだった。東雲すばるは相談者を目の前に、この後のやり取りが目に見えるようで溜息を吐く。
「いや、借金は返さんとアカンでしょう」
「でも社会人一年生が四百万円なんておカネ払えるはず、ないじゃないですか」
「その払えるはずのないおカネ、どうして借りちゃったのよ」
「奨学金なんだもの。国が無利子で貸してやるっていう制度なんだから、最終的に払えなくなっても何とかなると思うじゃないですか、普通」
 相談者の立石たていし美穂みほという女は、さも当然のように言い放った。この理屈がまず理解できない。彼女が借りた先は日本学生支援機構という独立行政法人だが、貸与型の奨学金には無利子の第一種と有利子の第二種があり、必ずしも無利子という訳ではない。むしろ第二種の奨学金を利用しているのが全体の七割以上だ。国が貸してくれるのだから最終的には何とかなるという理屈は更にぶっ飛んでおり、貸主が国なら余計に何ともならないという現実が理解できないのだろうか。
「あ、先生。今あたしのこと馬鹿にしたでしょ」
「奨学金の原資は税金なんだから、払えないからチャラって訳にはいかないだろ」
「それが分かってるから、こんなところへ相談に来たんじゃない」
 美穂は狭い事務所を見回して言う。
〈東雲司法書士事務所〉と名前はついているものの事務員はおらず、中にいるのは東雲一人だけだ。
「奨学金が四百二十万円、だけど月々の返済額は数万円のはずだ。しかも他にカードローンが六十万円ある。言いたかないけど若い娘の借金じゃねえぞ」
「だって、新入社員の給料で奨学金返してたら、あっという間に生活費がなくなっちゃうのよ。カードに手を出すのは当然でしょ」
「カードローンを借りても奨学金は返してないじゃないか。大体、自分で大学進学を選んだんじゃないのか」
「親がさー、半分見栄みたいなもので大学進学を勧めたんだよね。だったら返済も肩代わりするのがスジってもんでしょ」
「親御さんの協力は得られないのか」
「二人とも住宅ローンの返済で、それどころじゃないって。そうこうしているうちに支払いが滞っちゃって督促状も届いたし」
「どのくらい滞納している」
「んー、ちょうど半年かな」
 美穂はあっけらかんと言うが、いったい督促状を読んでいるのかどうか。
「滞納が九カ月続くと支払督促で訴えられるぞ」
「えー、国からの請求なんて、もっとゆるゆるでしょう」
「国がゆるゆるでも回収を任されているのは法務大臣の許可を受けたサービサーだ。おそろしくシステマティックに回収する。この手の支払督促はほぼ一〇〇パーセント認められるから、即刻給料が差し押さえられる」
 途端に美穂の顔色が変わる。
「差し押さえって何よ、それ。横暴じゃない」
「横暴じゃなく合法だ。差し押さえといっても基本給の四分の一で」
「四分の一も取られたらケータイ代も払えなくなるじゃない」
 借金は返せないのに通信代は払えるというのか。
「先生、お願い。何とかして。テレビでよく過払い請求とか宣伝してるじゃん。あれすればおカネが戻ってくるんでしょ」
「過払い請求ができるのは利率が法定金利を上回っている場合だけだ。奨学金の金利は一パーセント程度だからどうしようもない。できるとしても月々の支払額を見直すくらいだな」
「先生、能力ないんじゃない?」
 うんざりしてきた頃、タイミングがいいのか悪いのかノック二回の後に事務所のドアが開いた。
「お邪魔するよ」
 ドアの隙間から顔を覗かせたのは友人の燎原いさおだった。来客中だと知ると、遠慮がちに奥のスペースへと移動する。相談が終わるまで待っているという合図だった。

(このつづきは「文芸カドカワ」2019年5月号でお楽しみください)
※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。


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9月9日 配信

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