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連載

横溝正史ミステリ&ホラー大賞創設によせて vol.6

【連載】横溝正史ミステリ&ホラー大賞創設によせて 第6回 逸木裕

横溝正史ミステリ&ホラー大賞創設によせて

長い歴史を持つ「横溝正史ミステリ大賞」と「日本ホラー小説大賞」が統合し、ミステリとホラーを対象とした「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」として募集を開始しました(締切は9月30日)。これを記念し、歴代受賞作家の皆さんからメッセージをいただきました。
最終回となる第6回は、『虹を待つ彼女』で第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞した逸木裕さんです。

 1993年、コロラド州デンバーで『UFC1』という格闘技の大会が開かれました。現在の総合格闘技の嚆矢こうしとなった記念すべき大会で、空手家からボクサー、プロレスラーに相撲の力士までを集め、最小限のルールで行われたトーナメント戦です。各選手がそれぞれの流儀で磨いてきた技術と膂力りょりょくを、真正面からぶつけ合うバーリトゥードなんでもあり。そこには現在の洗練された総合格闘技とは別の、荒々しく野蛮な魅力がありました。
 このころの初期総合格闘技は、文芸の新人賞によく似ていると感じます。編集者の目が入っていない生原稿による、ガチンコの殴り合い。そして、数多あまたある新人賞の中でも、横溝正史ミステリ大賞は特にバーリトゥードな賞であったと私は考えています。過去の受賞作をひもとくと、横溝先生の作風を踏襲したような土俗的推理小説があれば、渋く硬質なハードボイルドもある。パズラー要素の濃い本格ミステリもあれば、幻想小説のようなものもあり、限りなくSFに近いものもある。投稿時代の私は、自分がミステリを書いているという意識があまりなく、自分でもなんだかよく判らない作品を書いては応募するということを繰り返していました。そういう曖昧なものを受け入れてくれる先はここだろうと、応募サイクルの中心に据えていたのが横溝賞です。受賞した『虹を待つ彼女』は、ミステリでもありSFでもあり恋愛小説でもあるという評価をいただき、この賞以外では世に出られなかったのではないかといまでも思います。
 さて、このたびそんな横溝賞と、これまたバラエティー豊かな作品群を送り出してきた日本ホラー小説大賞が合流しました。もうこれは『UFC1』どころではない、究極のなんでもありです。『UFC1』を完勝で制し、全世界に衝撃を与えたホイス・グレイシーのような、圧倒的に強く面白い作品が世に出ることを、キャリアの浅い作家として戦々恐々としつつも、楽しみにしております。

逸木裕(いつき・ゆう)1980年東京都生まれ。学習院大学法学部法学科卒。フリーランスのウェブエンジニア業の傍ら、小説を執筆。2016年、『虹を待つ彼女』で第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞。最終選考委員の有栖川有栖氏、恩田陸氏、黒川博行氏の絶賛を受け、デビュー。他の著書に『少女は夜を綴らない』『星空の16進数』がある。


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