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連載

「小説 野性時代」転載コラム「私の黒歴史」 vol.7

森バジル「ホムペの話」【連載コラム「私の黒歴史」】

「小説 野性時代」転載コラム「私の黒歴史」

最も旬で刺激的な物語が詰まった月刊文芸誌「小説 野性時代」より、コラム「私の黒歴史」を特別公開!
これって黒歴史? それとも白歴史? “色とりどり”のエピソードをお楽しみください。

(本記事は「小説 野性時代 2024年1月号」に掲載された内容を転載したものです)

森バジル「ホムペの話」
【連載コラム「私の黒歴史」】

 インターネットは人の黒歴史を加速させる。一九九二年生まれの僕は、二〇〇八年の高校入学と同時に携帯電話を得た(当時スマホなどないのでいわゆるガラケー)。クラスメイトの八割くらいは携帯を持っていて、インターネットを持ち歩いていた。
 今であればSNSがその役割を果たすのだろうが、当時の僕らのインターネットといえば「ホムペ」だった。ホームページを略してホムペ。今のSNSのように個人のアカウントを持つという感覚ではなく、クラスの友達や部活仲間やカップルなど複数人でホムペを運営するというスタンスが主流で、大抵は「@peps!」「モバイルスペース(モバスペ)」といったサービスを利用して作っていた。
 僕もクラスの友達とのホムペを持っていて、日記を書いたり写真を載せたりしていた。日記の中身はあまり覚えていないが、「チャリで神宮まで行ってきた」とか「テスト勉強がだるい」とか「レッドカーペットに出てた佐々木のぞみは絶対これから売れる」とかそういった他愛のない内容を痛い文体で記載していたと思う。
 @peps!の日記には「追記」という機能があり、本文の最後にある「追記」と書かれたボタンを押すと追加のテキストが読める、という仕様だった。さらにその「追記」に個別にパスワードをかけることもできたりしたので、例えば親しい友人にだけ見せたいような内容(恋人の愚痴とか)を書いたりすることもあったと記憶している。
 当時、日記にいろいろと工夫をしてみたいと思っていた僕は、この「追記」の機能を利用することを思いついた。全員が閲覧できる本文部分でクイズを出し、その答えをパスワードとして打ち込めば「追記」部分が読める、という日記を書いたのだ。そのクイズは――「僕の好きな人」。……思い出すだけで背中が痒くなる。
 ちなみに、パスワードは「sasakinozomi」すなわち「佐々木希」。好きな人とは言ったけど別に身近な人間とは言ってないでしょ、という引っかけをかましたのである。当時僕は「佐々木希より美しい芸能人はいない」と公言していたので、それを知っていた何人かはパスワードを見破れていたが、中にはクラスメイトの名前を出席番号順に入れていった奴もいるかもしれないし、中には自分の名を入れてみた子もいたのかもしれない……と、そういう余地を残す遊びだった。
 ……ここまで書きながら、十代の頃の話とはいえその痛さに身体が熱を帯びて変な汗がにじんできた。黒歴史だって歴史なのだから消すことはできない。今この瞬間もまた歴史となり、その歴史が黒く染まってしまう危険を孕みながら僕たちは生きている。

プロフィール

森バジル(もり・ばじる)
1992 年宮崎県生まれ。九州大学卒業。2018年に「モノクロボーイと月嫌いの少女」で第23回[秋]スニーカー大賞優秀賞を受賞し、同作を改題・改稿した『1/2―デュアル― 死にすら値しない紅』(角川スニーカー文庫)を刊行。23年に『ノウイットオール あなただけが知っている』で第30回松本清張賞を受賞し、単行本デビュー。

書籍紹介



ノウイットオール あなただけが知っている(文藝春秋刊)
著者:森バジル
発売日:2023年07月05日

第30回松本清張賞受賞作
この小説は、選考委員への「挑戦状」だ!
衝撃のデビュー作。

1つの街を舞台に描かれる、5つの世界は、少しずつ重なりあい、影響を与えあい、思わぬ結末を引き起こす。
すべてを目撃するのは、読者であるあなただけ。

推理小説/青春小説/科学小説/幻想小説/恋愛小説

5つの物語は、5度世界を反転させる。
森バジルを読めば「世界が変わる」
(あらすじ:文藝春秋オフィシャルHPより引用)

掲載号紹介



小説 野性時代 第242号 2024年1月号
編 小説野性時代編集部
発売日:2023年12月25日
商品形態:電子専売

荻原浩&誉田哲也&伊東潤&永井紗耶子の豪華新連載4本スタート! ブレイディみかこの読切も掲載!

【小説新連載】
荻原 浩――我らが緑の大地
植物は人間をどう思っているのだろう……?
迫真のパニック・サスペンス、開幕!

誉田哲也――暗黒戦鬼グランダイヴァー
圧倒的な力で暴徒を排除する者たちの目的は?
近未来ハード警察アクション小説!

伊東 潤――天地震撼 信玄と家康
攻めるは信玄、守るは家康。激突の時は迫っていた――。
謎多き〈三方原合戦〉に、歴史小説の旗手が挑む。

永井紗耶子――青青といく
広い世界が見たい少年、弥兵衛が出会った「先生」は――。
どこまでも自由に、世を変え人を救った異才・海保青陵の軌跡。

【読切】
ブレイディみかこ――ママの呪縛 私労働小説―ザ・シット・ジョブ―
東京・六本木。ベタな会話が溢れる夜の店に、
ママを中心とした歪な社会が形成されていた。

【連載】
東川篤哉――谷根千ミステリ散歩 密室の中に猫がいる 後篇
朝比奈あすか――普通の子
赤川次郎――三世代探偵団 愛と哀しみへの逃走
近藤史恵――風待荘へようこそ
秋吉理香子――殺める女神の島
櫛木理宇――死蝋の匣
阿津川辰海――バーニング・ダンサー
恩田 陸――産土ヘイズ
河崎秋子――銀色のステイヤー
新川帆立――目には目を
垣根涼介――武田の金、毛利の銀
今村翔吾――天弾

【コラム】
私の黒歴史――平戸 萌「マジカルだった私たち」
私の黒歴史――森バジル「ホムペの話」

第15回 小説 野性時代 新人賞 一次選考通過作品発表

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