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連載

「小説 野性時代」転載コラム「私の黒歴史」 vol.5

夢野寧子「薔薇ニ棘アリ」【連載コラム「私の黒歴史」】

「小説 野性時代」転載コラム「私の黒歴史」

最も旬で刺激的な物語が詰まった月刊文芸誌「小説 野性時代」より、コラム「私の黒歴史」を特別公開!
これって黒歴史? それとも白歴史? “色とりどり”のエピソードをお楽しみください。

(本記事は「小説 野性時代 2023年12月号」に掲載された内容を転載したものです)

夢野寧子「薔薇ニ棘アリ」
【連載コラム「私の黒歴史」】

 長い投稿生活の果てに、今年、群像新人文学賞を受賞し、デビューさせて頂いた。だが実を言うと、昔一年だけラノベ作家をしていたことがある。
 幼い頃から物語を考えるのが好きだったから、あるライトノベルの賞で佳作を頂いた時は、本当に嬉しかった。嬉しくて、舞い上がって、授賞式で着るワンピースを速攻買いに行った。
 何と能天気な、と今なら思う。だが当時の私は一応社会人ではあったものの、まだまだ学生気分の抜けない二十三歳。故に授賞式当日、衝撃を受けることになる。
 この時私以外にも数名の受賞者がいたのだが、「会場に美味しいご飯はあるかしら」なんて食い意地が張っていたのは私一人だった。受賞が決まって以降、他の受賞者達が選考委員の先生方の本を読んだり、次の小説の構想を練ったり、努力を重ねていたことを知って、私は猛省した。心を入れ替えようと決意した。
 だが、人間そんなに簡単に変われるはずもない。急に賢くなったり、筆力が向上したりするわけもなく、すぐに私は書けなくなった。プレッシャーから眠れなくなって、ある日取り返しのつかないミスを犯した。
 折角チャンスを貰えたのに。よくしてくれた編集部にも、読者の方にも申し訳なくて、何より自分が情けなくて、頭の中が真っ白になった。無数の棘が突き刺さったように胸が痛くて、そのくせ羞恥心が強すぎて涙は出なかった。結局一年足らずで、ラノベから逃げ出した。
 それから暫くは本業に専念したものの、どうしても書くことを諦めきれず、再び文学賞に投稿するようになった。一次選考も通らない日々が何年も続いて、何とか一次の壁を突破したと思っても、最終候補なんて夢のまた夢。
 そんな時、ふいにまたラノベが書きたくなった。昨年の秋、「群像」向けの応募原稿を書き上げた直後のことだった。
 過去の苦すぎる経験から、ラノベとは距離を置いていた。だが図書館にあったラノベを久々に読んでみたところ――これがめちゃくちゃ面白かった! 
 数年前に、電撃大賞を受賞した小説だった。私もこんなラノベが書きたい。そう思って夢中で書いたラノベは、残念ながら日の目を見ることはなかったけれど、何のご縁か電撃文庫の版元のKADOKAWAから執筆依頼を頂き、今私はラノベにまつわる自分の黒歴史について書いている。
 あの日刺さった鋭い棘は、ふとした瞬間、未だに胸をうずかせる。きっとこの先も、痛みが完全に消えることはないだろう。
 けれど、やっぱりラノベは楽しい。私にとってラノベ作家時代は黒歴史ではあるけれど、同時に薔薇色の時代でもあった。十数年の時を経て、ようやくそう思えるようになったことに感謝したい。

プロフィール

夢野寧子(ゆめの・ねいこ)
1986年東京都生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。2023年『ジューンドロップ』で第66回群像新人文学賞を受賞。

書籍紹介



ジューンドロップ(講談社刊)
著者:夢野寧子
発売日:2023年7月31日

わたしたちには家族をめぐる秘密がある

母の不妊治療の失敗、凶暴な白い光と共に襲ってくる片頭痛。
しずくとタマキは、持て余した心を抱えて
縛られ地蔵に会いに行く――。

傷つき、傷つけ、思いあう。痛切な家族の愛のかたち。

「ふと脳裏に、幼い未発達の実が木から落下する光景が過りました。
どうして自分は彼らと同じ道をたどらなかったんだろう」

第66回群像新人文学賞受賞作!
(あらすじ:講談社オフィシャルHPより引用)

掲載号紹介



小説 野性時代 第241号 2023年12月号
編 小説野性時代編集部
発売日:2023年11月25日
商品形態:電子専売

東川篤哉の新連載「谷根千ミステリ散歩」開幕! 読切には山本一力の人情時代短編「おてるの灯明台」掲載。超豪華執筆陣で贈る月刊文芸誌。

【新連載】
東川篤哉――谷根千ミステリ散歩 密室の中に猫がいる 前篇
東京・谷中には、おいしい食べ物、下町情緒、
そしてミステリが揃っている!

【読切】
山本一力――おてるの灯明台
おてるは富くじの当たり札を持ったまま亡くなった。
引き取り手を失った当選金の行方は──?

【連載】
赤川次郎――三世代探偵団 愛と哀しみへの逃走
秋吉理香子――殺める女神の島
伊吹有喜――銀の神話
今村翔吾――天弾
恩田 陸――産土ヘイズ
垣根涼介――武田の金、毛利の銀
河崎秋子――銀色のステイヤー
櫛木理宇――死蝋の匣
近藤史恵――風待荘へようこそ
新川帆立――目には目を
増田俊也――七帝柔道記II 立てる我が部ぞ力あり
森 絵都――デモクラシーのいろは

【コラム】
告白します――片島麦子「猫と暮らすとは思わなかった」
私の黒歴史――三日市 零「提出物でそれはやめとけ」
私の黒歴史――夢野寧子「薔薇ニ棘アリ」

【記事】
Book Review「物語は。」吉田大助
――逢坂冬馬『歌われなかった海賊へ』

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年に一度の特別版「小説 野性時代 特別編集 2023年冬号」登場!



電子書籍として毎月25日に配信している月刊文芸誌「小説 野性時代」。
その特別編集の紙版「小説 野性時代 特別編集 2023年冬号」が2023年11月22日(水)に発売しました。
直木賞作家・葉室麟の未発表中編「不疑」初掲載に加え、森村誠一の追悼特集、第14回山田風太郎賞の結果発表および選評、佐藤正午・窪美澄ら歴代受賞作家5名による競作を掲載。「小説 野性時代」の新創刊20周年記念特集では、2003年の新創刊以来の歩みを振り返ります。また、伊坂幸太郎、辻村深月の最新刊刊行に合わせた特別企画や、ラランド・ニシダの最新中編小説など、超豪華執筆陣による大ボリュームでお届けします。
年に一度の特別版をぜひお楽しみください!

詳しい情報はこちら https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000013729.000007006.html


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