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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.50

【連載小説】「警察をなめるな!」──特殊犯罪に挑む女性刑事たち。 矢月秀作「プラチナゴールド」#13-4

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
>>前話を読む

 つばきはブレーキを踏み、バイクの五十メートル手前で車を停めた。
 車のライトがバイクを照らす。
 しばし、つばきたちとバイクの何者かは睨み合った。
 そして、ゆっくりとバイクがつばきたちの車に近づいてきた。十メートルほど手前で停まると、何者かはエンジンを切ってバイクを降りた。ヘッドライトをともしたまま、つばきたちの方へ歩いてくる。
 つばきもエンジンを切り、車から降りた。りおも続く。二人はヘッドライトを背に、何者かに近づいた。
 五メートルほどの距離を置いて、双方が立ち止まった。
「永正耕太か!」
 つばきが声を張った。
 何者かは、ヘルメットのシールドを上げた。
「君たちは警察関係者か?」
「警視庁の彩川だ!」
 つばきの口調につられ、りおが大声で名乗った。
「同じく、警視庁のしいだ。永正だな」
「そうだ。こんなに早く居所が割れるとは思わなかった。たいしたものだな、君たちは」
「警察をめるな!」
 りおが興奮気味に叫ぶ。
 つばきは苦笑しつつ、永正を見据えた。
「予想はしていたんだろ? でなきゃ、こんな手の込んだをして、追跡者をまこうとはしない。それとも、私たち以外の誰かに追われる理由でもあるのか?」
 問いかける。
 ヘッドライトが照らす永正の頰に笑みがにじんだ。
「万が一、そうしたこともあるかもしれないと、手を打っただけなんだがね」
「つまんない手を打たなきゃならないことをしたんだろ?」
 つばきが挑発気味に言う。
「君たちが何をどこまでつかんでいるのか知らないが、ある面は事実で、ある面は事実でないだろう」
 永正の声に余裕が滲む。
 つばきは嫌な予感がした。
「一つ、提案がある」
 永正が切り出した。
「私は逃げない。真相をうやむやにして死ぬこともない。すべてが終われば、必ず、出頭する。だからもう少し、あと半年だけ、猶予をもらいたい」
「条件はめない。今すぐ出頭して、一連の事件の真相を語ってもらう」
 つばきは一刀両断に返した。
「どうしても、ここで私を逮捕するのか?」
「逃がす気はない」
「頑固な人だな……」
 ふっと笑う。
「ということだ」
 永正が言った。
 と、防砂林の向こうからバイクの音が聞こえてきた。数台、いや、十数台──。ヘッドライトが二つ三つと現われ、つばきたちに迫ってくる。
 りおが車へ駆け戻ろうとした。
 パンと乾いた音が響き、りおの足元の砂が弾けた。
 とっさに足を止める。
「動かない方がいい。腕のいい狙撃手が君たちを狙っている」
「そんな連中、なぜ雇ってる?」
「いろいろあるんだ。世の中、理屈や道理じゃ動かないこともある。そういう時に使えるのは暴力だけだ」
「つまらないくつだね」
「君たちも公権力という暴力を盾に、一般市民を脅しているだろう? しかし、公権力は一部の者には役に立たないこともある。近頃のネットかいわいの言葉を借りれば、上級国民に対して、公権力は無力だな」
「おまえに何がわかる?」
「君たちこそ、私の何を知っている? 暴力なんて、使わずに済むなら生涯使うことなく終えたいものだ。だが、それを使わざるを得ない状況に追い込まれた時、君ならどうする? 座して死を待つか、プライドをかなぐり捨てて活路を見いだすか」
 永正が話している間に、複数のバイクが永正とつばきたちを半円形に取り囲んだ。ヘッドライトが、浜辺にスポットライトを作っている。その中央に三人がいた。
「私は無用な暴力は振るわない。すべては理由があってのことだ。君たちには君たちの理屈があるように、我々には我々の理屈がある。ただ、私も法治国家に生きる人間。法を犯したならば、裁かれなければならない。だから逃げないと言っている。その上で、すべてが終わるまで待ってほしいと頼んでいる。もうこれ以上、無用な暴力を行使したくないんだ」
 とうとうと持論を語る。
 あまりに身勝手な言い分に、つばきは怒り、震えた。顔を上げる。今にも怒鳴ろうと口を開きかけた時、りおが先に言葉を発した。
「わかりますー、それ」
「彩川!」
 つい、りおに向かって怒鳴った。
 りおはつばきを無視して、永正を見つめていた。
「理由がなきゃ、人は暴力を振るわない。理由があるから、仕方なく暴力を振るう。ホント、その通りだと思いますー」
 笑顔を向ける。
 永正がうっすらと微笑んだ。
 瞬間、りおが真顔になった。
「──って、バカじゃないの、あんた」
 声が低くなり、口調は冷たい。
「暴力に理由なんてないよ。自分の感情に任せて、肉体や言葉で相手を傷つけたいだけ。あんたの理由なんて知らないけどさあ。結局は、腹が立ったことがあって、銃とか振り回してるんでしょ? あるいは、自分の都合が悪くなるからとか。そんなもんよ。違う?」
 顎を上げて胸下で腕を組み、見下げる。
「君は暴力の本質をわかってないね」
 顔を小さく横に振る。
「わかってないのは、あんただよ。暴力振るうのにあれこれ理由を付けちゃってさあ。なんか理屈付けないと、自分が堪えられないんでしょ? 自分がただのごろつきと思われたくないんでしょ? 周りにいい顔して暴力振るうヤツほど、救いようのないバカはいないよねー」
 そう言い放ち、りおはケラケラと笑った。
 周りを囲んだバイクの者たちが、一気に殺気立った。
「あんたみたいなバカがね。真面目に、静かに生きたい人たちを傷つけるんだよ。悪気の欠片かけらもなく。私は、あんたみたいなバカがこの世で一番──」
 りおがキッと眉をり上げた。
「大っ嫌い」
 思い切り罵倒され、永正の表情もゆがむ。
 が、すぐに笑みを作り直した。
「言いたいことはそれだけか?」
「もう一つ」
 りおは腕を解いて、だらりと振った。永正や他の者には、だらしなく腕を垂らしただけに見えた。
 しかし、りおはつばきの腕を意識してトンと叩いた。
 つばきはそれに気づいた。が、相手に悟られないよう、表情を変えなかった。
「私たちがどうなろうと」
 りおは右足の膝から下を曲げ、爪先を砂地に差し入れた。
「あんただけは逃がさないからね!」
 声を張った瞬間、砂を永正に向けて蹴り上げた。同時にバイクの者たちの陰に隠れるようしゃがむ。つばきも瞬時にかがんだ。
 スポットライトの様に集まった光の中に、つばきとりおが沈む。
 永正は手を顔の前に立て、砂を避けた。目を開けると、そこに二人の姿はない。
「どこだ!」
 永正は周りを見回した。
 と、いきなり、車のエンジンがかかった。
 永正が車を見た。すると、タイヤが砂をき上げ、急発進した。永正に突っ込んでくる。
 永正は真横に飛び退いた。
 車はバイクを弾き飛ばした。ヘッドライトが割れて消え、ミラーやカバーが砕けて砂浜に四散する。
 車はバイクを踏み潰して、直進する。
「追え!」
 永正が怒鳴る。
 バイクが一斉につばきたちの車を追い始めた。
 助手席に飛び乗ったりおは、アシストグリップを握り、弾む体を支えていた。
「先輩! 逃げるんですか!」
「まさか」
 つばきはハンドルを切って、反転した。そして、バイクの群れに突っ込んでいく。
 突如向かってきた車に驚き、バイクの列が左右に散った。遅れたバイクを車がね上げる。
 宙を舞ったバイクとライダーが砂浜に叩きつけられた。
 いきなり、フロントガラスにの巣状のヒビが走った。
 つばきとりおは思わず首をひっこめる。
「銃が厄介だね」
 つばきはまた反転した。
「かき回すよ。しっかりつかまってな!」
 言うと、リアを振ってまた、バイクに向かって車を走らせた。

▶#14-1へつづく


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