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大河ドラマを100倍楽しむ 王朝辞典 vol.6

第六回  時姫(道長の母親)【大河ドラマを100倍楽しむ 王朝辞典 】

大河ドラマを100倍楽しむ 王朝辞典

第六回  時姫ときひめ(道長の母親)【大河ドラマを100倍楽しむ 王朝辞典 】

   時姫は兼家の妻。そして道長の母親です。それでは時姫と兼家との間の子どもたちを書いてみましょうか。それは、道隆みちたか超子ちょうし道兼みちかね詮子せんし、道長です。そうですね。道長は末っ子です。
 そのうち、超子は三条天皇の母親、そして詮子は一条天皇の母親。すごいことですね。それで、時姫栄達の秘訣は? というとそれはもう「健康」ってことです。
 だいたいこのシリーズのなかの第三回「平安女性の二十四時間」でお話ししたように、出産というのは命がけのことでした。それを、この人数で母子ともに健康、というのは、運もあるでしょうが、母親が健康でないとできないことです。というわけで、時姫は超健康。
 それで、道長の母親としての時姫はよく説明されますが、ここでは彼女の違う面について少し加えましょうか。
 時姫も当時の人たちと同じように、歌を詠んでます。それも『蜻蛉日記』に出てくるのですよ。『蜻蛉日記』の作者は兼家のもう一人の妻である道綱母が書いたもの。そして、時姫は兼家と結婚した時期もはやく、子どもの数が多いので、時姫の方が正妻といわれています。つまりは二人はライバルってことになりますね。
 そんな『蜻蛉日記』に時姫の歌が登場するのでした。それは兼家の新たな愛人が発覚した時のことです。この人は町小路女まちのこうじのおんなといいました。その時、なんと道綱母は時姫に歌を贈るのです。そのうちの二首を見てみましょうね。

吹く風につけてもとはむささがにの通ひし道は空に絶ゆとも
(吹く風につけてもあなたにお便りをさしあげたいと思っています。風が吹いて蜘蛛の糸が絶えるように、あの人の通って来る道が絶えてしまっても。)

この歌を道綱母が贈ったら、時姫は、

色変はる心と見ればつけてとふ風ゆゆしくも思ほゆるかな
(秋になって色が変わってしまう草木に吹く風。まるで人の心変わりをあらわすような風に託してのお便りなんか、不吉な感じがするのです。)

と返事をするのでした。そうです。道綱母の歌では「兼家=蜘蛛」になっているのですね。つまり「風が吹いて蜘蛛の糸が切れるように、兼家が来なくなってもあなたに連絡したい」と書いたわけなんです。
 時姫はどうでしょう。それに対して反論してますね。そんな不吉な風につけての便りなんかいらない、という具合。兼家が道綱母に通っている時は、時姫にとって道綱母はライバルなはずです。だから、いくら町小路女が出てきたからといって、「仲良くしましょう」と言われて「はい」などとは言えませんよね。
 このように、時姫の歌は少しとげがある歌となっています。
 これ以降も、なぜか町小路女関係で時姫と道綱母の歌が続きます。いったいどんな気持ちで道綱母は、歌を時姫に贈ったのでしょう。そして時姫の歌を自分の作品である『蜻蛉日記』に入れたのはなぜでしょう? 
 時姫にはかなわない、と思ったから? はたまた時姫よりも自分の歌がうまいと書きたかったから? などなどたくさんの意見があるのですよ。ぜひぜひみなさんも『蜻蛉日記』上巻に入っている時姫の歌を読んで考えてみて下さいね。(角川ソフィア文庫『新版蜻蛉日記Ⅰ』を参考にしてね)。

プロフィール



川村かわむら裕子ゆうこ
1956年東京都生まれ。新潟産業大学名誉教授。活水女子大学、新潟産業大学、武蔵野大学を経て現職。立教大学大学院文学研究科日本文学専攻博士課程後期課程修了。博士(文学)。著書に『はじめての王朝文化辞典』(早川圭子絵、角川ソフィア文庫)、『装いの王朝文化』(角川選書)、『平安女子の楽しい!生活』『平安男子の元気な!生活』『平安のステキな!女性作家たち』(以上岩波ジュニア新書)、編著書に『ビギナーズ・クラシックス日本の古典 更級日記』『ビギナーズ・クラシックス日本の古典 拾遺和歌集』(ともに角川ソフィア文庫)など多数。

作品紹介

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『はじめての王朝文化辞典』
著者:川村裕子 絵:早川圭子
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『源氏物語』や『枕草子』に登場する平安時代の貴族たちは、どのような生活をしていたのか?物語に描かれる御簾や直衣、烏帽子などの「物」は、言葉をしゃべるわけではないけれど、ときに人よりも饒舌に人間関係や状況を表現することがある。家、調度品、服装、儀式、季節の行事、食事や音楽、娯楽、スポーツ、病気、信仰や風習ほか。美しい挿絵と、読者に語り掛ける丁寧な解説によって、古典文学の世界が鮮やかによみがえる読む辞典。



『ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 拾遺和歌集』
編:川村裕子
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『源氏物語』と同時期に成立した勅撰和歌集。和歌の基礎や王朝文化も解説! 「拾遺和歌集」は、きらびやかな貴族の文化が最盛期を迎えた平安時代、11世紀初頭。花山院の勅令によって編まれたとされる三番目の勅撰和歌集。和歌の技法や歴史背景を解説するコラムも充実の、もっともやさしい入門書。



角川ソフィア文庫の紫式部関連書籍特設サイト
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