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連載

万葉集に、親しもう。

新元号は「令和」! 消滅の危機を乗り越え1300年以上続いてきた「元号」の歴史と謎をひもとく!

万葉集に、親しもう。

去る4月1日、新元号が「令和れいわ」となることが発表されました。

「令和」で第232番目(北朝を数えると248番目)を迎える元号には、どのような歴史があったのでしょうか。

いつも古典をやさしくわかりやすく読み解いてくださる研究者の吉海直人先生に、元号とはなにか、また、新元号となる「令和」に込められた思いについて、寄稿していただきました。


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 元号について

   吉海直人(同志社女子大学教授)


 4月1日、新元号が「令和」に決まったという報道がありました。これで5月1日から平成31年は令和元年に変更されることになります。今回の特徴は、従来の元号が漢籍を典拠としていたのに対して、初めて日本の古典から採用されたことではないでしょうか。

 そもそも元号というのは、中国発祥のものでした。古く前漢の武帝が「建元」という元号を創始したとされています。必然的に中国の冊封国は、中国の暦と一緒に中国の元号を使わなければなりませんでした。元号は暦の一部でもあったからです。

 日本が独自の元号を使用しはじめたのは、遅れて大化の改新の時からだとされています(独立国の意識を示す)。その後しばらくは断続的に用いられていたようですが、文武天皇5(701)年に「大宝」が制定されて以来、今日まで長く元号が用いられ続けてきました(「令和」は232番目、北朝を加えると248番目)。

 その間、本家本元の中国では、清が滅亡した際に元号も廃止されました。周辺の国々も元号をやめてしまい、現在残っているのは日本だけだそうです。もし第二次世界大戦敗戦後に天皇制が廃止されていたら、おそらく元号も同時に廃止になっていたでしょう。というのも、元号は君主制(天皇制)と不即不離の関係にあるものだからです。

 それとは別に、元号の廃止は戦後の国会でも議論されました。その折、日本における元号の意義を熱く説いたのが歴史学者の坂本太郎博士でした。幸い昭和54(1979)年に元号法が制定されたことで、元号の存続が決定されたのです。それもあって、西洋暦と元号(和暦)の併用が行なわれているわけです。

 なお、明治になって元号の制度が変更になりました。それ以前は、天皇の譲位とは関係なく随意に改元することができました。それに対して明治政府は「一世一元」のみことのりを発布して、新天皇即位の時にだけ改元することにしたのです。それもあって、昭和が日本で一番長い元号となっています(64年)。

 現在の天皇陛下は、ご高齢だった昭和天皇を身近に御覧になられていたこともあり、80歳を過ぎたら退位したい旨を述べられていました。明治以降初めて生前譲位が行なわれることになり、それに伴って改元されることになったわけです。なお今上天皇は、譲位後は「上皇陛下」と称されることになります。

 さて出典を日本の古典に求めることについては、平成の改元の前にやはり坂本博士がおっしゃっていたとのことです。日本の古典の中には、『古事記』や『日本書紀』など漢籍に準じたものもあるのですが、今回は思いきって『万葉集』からの出典とされました。

 といっても、「令和」は決して和歌の一節などではありません。天平2(730)年正月13日のこと、大宰府に赴任していた大伴旅人の邸で梅花の宴が開催されました(当時は白梅です)。その宴で歌われた「梅花の歌32首」(815~846番)の序として書かれた部分からの引用となっています。原文は漢文調なので書き下し文にすると、

  時に初春の令月にして、気く風やわらぎ、梅は鏡前の粉をひらき、蘭ははい後の香を薫らす。

 云々となります。時は初春のすばらしい月、空気は清らかで風も穏やか、梅は鏡の前で装うように白く咲き、蘭は身に帯びた香りのように薫っている。平和で穏やかな宴会の様子が綴られています。

 その中の「初春令月、気淑風和」が今回の出典ということになります。おわかりのように「令和」という熟語があるわけではなく、対句になっている「令月」と「風和」から一字ずつ取って「令和」という造語にしているのです。なお「令」は初めて元号に用いられた漢字です。この場合は命令・法律・長官などの意味ではなく、「立派な・すばらしい・良い」という意味です。また「和」は平和・調和・和睦というより「なごやか・おだやか・やわらぐ」の意味です。「令和」にはそういう世の中になってほしいという願いが込められているのです。

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世の中への願いをこめて定められた新元号。
自然に寄り添い、すばらしく、おだやかな時代を迎えたいと心から思います。

さて、「令和」の出典となった『万葉集』をはじめ、『百人一首』『源氏物語』『枕草子』『徒然草』などの古典文学から日本文化について、吉海先生の詳しい解説によってより親しむことができるこちらの本はいかがでしょうか。


吉海直人『古典歳時記』(角川選書)

百人一首、源氏物語、枕草子、徒然草……日本文化の奥深さに感嘆

古来、日本人は自然に寄り添い、時季を楽しんできた。旬の食べ物、花や野鳥、気候や年中行事……折々の暮らしに根ざしたテーマを厳選し、時事的な話題・歴史的な出来事を入り口に、四季折々のことばの語源と意味を解き明かす。「『春はあけぼの』は平安朝の人々の美意識ではなかった」「西行の詠んだ『花』は何か」「あじさいは平安朝の女流文学には出てこない」など、文学の知識も学べる古典文化の案内書。
https://www.kadokawa.co.jp/product/321806000077/


※この原稿は、同志社女子大学ホームページ「教員による時事コラム」(https://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/11116)と同時に掲載しております。


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