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連載

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」 vol.9

北上次郎の勝手に!KADOKAWA 第9回 エミール・ギメ『明治日本散策 東京・日光』 明治の日本紀行

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」

数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。

エミール・ギメ『明治日本散策 東京・日光』


書影

エミール・ギメ『明治日本散策 東京・日光』(角川ソフィア文庫)


 前回紹介したフェリックス・レガメ『明治日本写生帖』は、明治32年に来日したときの観察をもとにした2作の著作を再編集したものだが、これはレガメ2度目の来日であり、最初に来日したのは明治9年。このときは、フランス国立ギメ東洋美術館の創設者エミール・ギメの調査旅行に、挿絵画家として同行した。そのときの日本紀行が『明治日本散策 東京・日光』で、ここにもレガメの挿絵が140点挿入されている。『明治日本写生帖』とはまったく別のものであるので、レガメのファンには嬉しい。

 反骨の絵師・河鍋暁斎の家を訪ね、レガメと暁斎が向き合って肖像画を描き合うくだりが本書に出てくるが、それをギメはややおおげさに描いている。

「かくして両者は、眼に炎をたぎらせ、息を押し殺し、互いに挑み合い、敏速かつ完璧に仕上げようと、性急かつ猛烈に描いたのだ」

 フェリックス・レガメと河鍋暁斎が描いたそれぞれの肖像画は本書に収録されているが、そうか、この二人はこういう顔をしているのかと納得する。特に、河鍋暁斎が描いたフェリックス・レガメの肖像が素晴らしい。河鍋暁斎がいかに偉大な画家であったのかが理解できる。もちろん、レガメの絵も相変わらず素晴らしく、たとえば、見開きで掲げられた「車夫たちの休憩の図」は、半裸の男たちの息遣いまでもが立ち上がってきそうなほど、リアルだ。

 ギメの報告は、どこで聞いたのか、さまざまな各地の言い伝え、説話などを詳しく紹介しているのが特徴で、そこに宗教研究家としてのギメの素顔を見ることも出来る。そういうさまざまな話の中に、人間の心を探る探究心があったようにも思えるのである。

 ギメとレガメの旅は、東海道、京都へと続き、「東京・日光」編に続いて「東海道・京都」が書かれる予定だったようだが、その後編がついに書かれなかったのは残念だ。

エミール・ギメ/訳:岡村嘉子『明治日本散策 東京・日光』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321806000092/


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