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連載

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」 vol.11

北上次郎の勝手に!KADOKAWA 第11回・中島秀人『ニュートンに消された男 ロバート・フック』 科学者の傑作評伝

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」

数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。

中島秀人『ニュートンに消された男 ロバート・フック』


書影

中島秀人『ニュートンに消された男 ロバート・フック』(角川ソフィア文庫)


 1996年に朝日選書の一冊として刊行されたものの文庫化である。大佛次郎賞を受賞した書であるから、名著といっていい。専門外なので、私は未読だったが、このタイトルにひかれて読み始めたら、いやあ、面白い。一七世紀に生きた科学者の評伝なのだが、このフック、さまざまな分野に手を出している。長大な望遠鏡を製作した天文学者であり、機械時計の製作者であり、さらに建築家でもあったというから、本業は何なの、と言いたくなる。中島秀人が第9章のタイトルを「一七世紀のレオナルド」としているように、多方面で活躍した人なのである。

「フックの法則」にその名を残している科学者だが、この「フックの法則」、バネの伸びは、それに加えられた力に比例する、という単純な法則で、おそらく中学生のときに習ったと思われるが、おお、覚えていない。

 いちばん驚いたのは、デカルトが科学者であったという記述。てっきり哲学者だとばかり考えていたが、彼の著作の多くは科学に関係するものだと著者は書いている。

 評伝であるから、フックの私生活が克明に描かれているのも興味深い。当時の男がメイドに手を出すのは珍しくなく、フックもメイドと関係した日、オーガズムの記号とともに日記に書き込んだこと、その中でも長い間関係を持ったネルというメイドとは、肉体関係が切れたあとも毎週のように顔を合わせ、食事の世話を受けたことなど(兄の娘グレースを預かっている間に関係もしているから、この男、結構「ご活躍」だ)、その赤裸々な日々からフックの実像が立ち上がってくる。

 ニュートンと何度も論争を繰り返し、ニュートンの名声が高まるにつれて、フックが忘れ去られていく終章が物哀しい。フックの死後、王立協会の会長ニュートンが、物理的にフックを排除していったというのだが、長く生きた者の勝ち、ということのような気もするのである。

中島秀人『ニュートンに消された男 ロバート・フック』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321712000259/


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