
第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞 史上初の三冠受賞作!── 『をんごく』レビュー【本が好き!×カドブン】
カドブン meets 本が好き!

『をんごく』レビュー【本が好き!×カドブン】
書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
今回のベストレビューは、ぱせりさんの『をんごく』に決まりました。ありがとうございました。
扇の要をはずすこと。
レビュアー:ぱせりさん
古瀬壮一郎の妻倭子は、あまりに早くあっけなく亡くなった。だから、彼は、巫女に口寄せを依頼した。能力のある巫女だったが、この降霊はうまくいかなかった。巫女は、倭子の死に腑に落ちないものを感じる。
その頃から、壮一郎のまわりに、ある気配がたち始める。それは、倭子の霊の匂やかな気配と、何か禍々しいものの気配と。
この世をさ迷う倭子の霊と、そもそもの彼女の死の謎とをめぐって、ここに奇妙な三人が集まっている。
もともと大店のぼんぼんであるせいか、高等遊民的な雰囲気を持った壮一郎。
巫女である密子は世間ずれして、いささかがめつい。
往生できない霊を貪り食う、一種の化け物、通称エリマキ。
胡散臭い連中だが、実は案外お人よしで、情に脆い。
乗りかかった船は、自分が可愛ければさっさと降りてしまえばよいのだ。そうすれば安全だっただろうに。ほうっておけない人たちの情が、三人を結び付けている。
彼らはその素性よりも、その心根のために、社会のアウトローになってしまっているのではないか、と思うほどだ。
三人の弾む会話がなんとも魅力的で(でも当人たちは全く意識していなくて)、仲間に入れたらさぞ楽しいだろう(と言ったら当人たちはさぞうんざりするだろう)、と思う。
この物語、ジャンルでいったらホラーになるのだろうが、おどろおどろしいというより、むしろ、幻想的で美しい物語、と思った。哀しく愛おしい。端正な文章もよかった。
これは、別れを受け入れる物語、その過程を辿る物語だと思うのだ。
別れがたい思いは、ときに執着に繋がると思う。寂しいけれど、辛いけれど執着を手放していく。
それは、死別した夫婦の間だけではなく、この物語のなかで集った人たちのことでもある、と思う。
物語のなかに、「扇の要をはずす」という言葉があった。扇が扇としてまとまるのは、要があるからこそ。その要を外すのは、きっとその先にある善きことを信じることでもある、祈ることでもある、と思う。ゆくものにとっても、のこるものにとっても。
▼ぱせりさんのページ【本が好き!】
https://www.honzuki.jp/user/homepage/no2250/index.html
書誌情報
をんごく
著者 北沢 陶
発売日:2023年11月06日
第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞 史上初の三冠受賞作!
嫁さんは、死んでもまだこの世にうろついているんだよ――
大正時代末期、大阪船場。画家の壮一郎は、妻・倭子の死を受け入れられずにいた。
未練から巫女に降霊を頼んだがうまくいかず、「奥さんは普通の霊とは違う」と警告を受ける。
巫女の懸念は現実となり、壮一郎のもとに倭子が現われるが、その声や気配は歪なものであった。
倭子の霊について探る壮一郎は、顔のない存在「エリマキ」と出会う。
エリマキは死を自覚していない霊を喰って生きていると言い、
倭子の霊を狙うが、大勢の“何か”に阻まれてしまう。
壮一郎とエリマキは怪現象の謎を追ううち、忌まわしい事実に直面する――。
家に、死んだはずの妻がいる。
この世に留めるのは、未練か、呪いか。
選考委員満場一致、大絶賛!
第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞 史上初の三冠受賞作!
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