
愛は愛だ。だから、愛は言い換え不可能だ。その不可能に挑んだのが、本書である。私達は、私達が思っているほど愛を知らない。『愛の言い換え』【本が好き×カドブン】
カドブン meets 本が好き!

書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
>>【第17回】ドはまり必至。著者初の書籍化!とにかく一度、この作品に入り込むべし。
第18回のベストレビューは、ひろPさんの『愛の言い換え』(著者・渡邊璃生)に決まりました。ひろPさん、ありがとうございました。
愛は愛だ。だから、愛は言い換え不可能だ。その不可能に挑んだのが、本書である。私達は、私達が思っているほど愛を知らない。
レビュアー:ひろPさん
この世界に本書があって、よかった。その世界観に深く共感すると共に、羨望や嫉妬にも似た思いを作者に抱く。
七編の短編からは、世界に溶け込めない者たちの居心地の悪さが伝わってくる。
居心地の悪さを感じずに現実で生きている人などいないのだから(仮にいたとしたら、生きていないも同然だ)、普遍的なモチーフだ。だが特に、居心地の悪さを強く感じている人に読んでもらいたい。
私にとって、現代小説の多くは、文体の流麗さにも関わらず、なかなか頭に入ってこない。読書感想文のお手本のような技巧性が無意識に鼻につくのだろう。
一方で、本書はすらすらと読めた。文章の洗練もさることながら、舞台の多くが現代社会であるものの、「ここではない、どこか」という寓話的な雰囲気が、かえって人の深層に潜むリアルなものと繋がっているのだろう。現実より空想に重きを置く者なら、自ずと親しめる世界だ。
本書は、現実で感じるモヤモヤを寓話的なかたちに言い換えて、世界の真実に肉迫する。仮に「特殊な職業人の描写がないから、社会性がない」という感想があったとしたら、八百屋で魚を求めるのと同程度の的外れだ。
読み進めると、寓話的な世界の裂け目から、登場人物を通して、作者の実感らしいものが聞こえてくる。例えば、肥満な女子に浴びせる罵声。「その体は止むを得ない結果じゃないでしょ? 自分の怠慢が引き起こしたことだよね。」(これは、作者が自分自身にも叩きつけている言葉でもあろう。)
他にも、辛辣な言葉はたくさんでてくる。
が、同時に、抑制された文章のなかにそれらはでてくるので、「お腹いっぱいなのに、更にステーキを頬張る」ような不快感はない。
本書においては、過度な描写はない。人物や風景の見た目、暴力行為などは過度に描写されていない。これもまた、私の好みである。描写の嘘臭さを感じているのだろう。
ただ、寓話と異なるのは、登場人物が王子様やお姫様ではなく、その多くが具体的な氏名をもっていることだ。
つまり、「氏名という具体的な輪郭を持った存在が、日常と地続きの非日常世界にいつの間にか迷い込んで、世界や自身の不条理に触れ、途方に暮れる」構造を取っている。
このような要約は、本書の魅力をいささかも伝えない。レシピを見て、オムライスの味を想像しろと言われても、困るだろう?
表題作の「愛の言い換え」の世界観は、とても独特的だ。聖書を多引用しながら、男女の苦しい状況を描いている。そして、その苦しさが極まり、場面によっては滑稽にすら見えてくる。
私としては、どれも傑作と思うなか、「ゆうしくんと先生」に特に惹かれた。先生につい感情移入してしまうのは、私達が固有名詞や記憶がかりそめのものだと薄々気づいている証拠だ。
レシピ通りにオムライスを作ったつもりでも、味は人によってばらばらだ。人生と同じだ。作者ならではの、ものの見方には強烈な独自性があると同時に、その表出には(上で述べたように)絶妙なバランスが図られており、美味しさ抜群である。是非、次回作も読みたい。
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https://www.kadokawa.co.jp/product/321904000345/
▼ひろPさんのページ【本が好き!】
https://www.honzuki.jp/user/homepage/no14095/index.html
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