
青春小説のスタイルを取りながらステレオタイプさをまったく感じさせない新しさ『昨日星を探した言い訳』【本が好き×カドブン】
カドブン meets 本が好き!

書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
>>第21回おんな大工として江戸の町で頑張るお峰。笑いあり涙あり恋もある、人情味あふれる時代物。お江戸の人達の姿が生き生きとしていて、本の中から飛び出してきそう!
第22回のベストレビューは、Toshiharuさんの『昨日星を探した言い訳』(著者・河野裕)に決まりました。Toshiharuさん、ありがとうございました。
青春小説のスタイルを取りながらステレオタイプさをまったく感じさせない新しさ
レビュアー:Toshiharu さん
この小説の舞台では目の色で差別があり、黒い目を持つ多数派の人に比べ少数派の緑の目を持つ人たちは学校や住環境、就職や結婚など様々な場面で差別されてきた歴史を持つ。社会的な取り組みの結果、差別は表面上は解消されたものの、人々の意識や生活の中に根深く残るその様はアメリカのBLM運動を想起させる。
マイノリティを差別するのは目の色だけではない。障害者、親がいない、そして、女性。本作の主人公、茅森良子は緑の目を持ち、児童養護施設で育った女性という、いくつもの差別される側のパラメータを持っている。それを悲観するでなく過剰に反応するでなく、ふとした契機で里親となった著名人の後押しもあり転入した名門の中高一貫校で生徒会長となり、将来には総理大臣になるという遠大な目標を掲げ公言し一歩一歩進んでいく。
そこには、差別への反発などではなく、自身の能力を信じており、どこまで上昇できるかを試したいという純粋な欲求と、力を得て実現したい未来がある。マイノリティだからみえない壁を前にして諦める、とかはない。自身の能力以外のパラメータに左右されない意思の強さがある。
象徴的なのは、30kmものウォーキングをする学校行事の出来事だろう。参加するかどうかは自由意志なこのイベント、学年に1人、足が不自由で車椅子で行動するクラスメイトがおり、彼がこのウォーキングに参加するのなら特別な班編成をしてサポートすることを考える教師に対し、彼はそういう特別扱いを拒否し不参加を選択する。しかし、実際は友人の一人と示し合わせて彼は参加していた。当然、教師が考えるようなサポートはないが、彼は自分の力でどこまでできるかを純粋に試したかったのだろう。
差別はもちろん悪だが、差別しないために過剰に反応し保護しようとするのも差別である。この微妙なロジックを理解しないまま善意の押し売りをすることがいかに愚かなことか、もう一人の主人公である坂口や車椅子の彼がどれだけ主張してもその言葉は通じない。だからといって反発したり声を荒げたりするのではなく、淡々と現実を受け入れ、現実を変えていくために力をつけようとしていく成長のプロセスを繊細にうまく描いていると思う。
---
▼書籍の詳細はこちら
https://www.kadokawa.co.jp/product/322004000166/
▼Toshiharuさんのページ【本が好き!】
https://www.honzuki.jp/user/homepage/no13043/index.html