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特集

――私にとってベースとなる小説を書こうと思った 『昨日星を探した言い訳』発売直前! 河野裕書面インタビュー

撮影:臼田 尚史 

作家生活10年の集大成として書かれた『昨日星を探した言い訳』。平等な社会を創るため総理大臣になりたい少女と、すべてに公平かつ潔癖でありたい少年が、出会って恋に落ちて共に戦う青春小説に、作者が込めた想いとは――?

質問1 小説では主人公の中高生時代が描かれます。河野さんご自身は、どんな学生生活でしたか?


河野: 十代のころは、たとえば花束が嫌いでした。人間のために刈り取った生き物の死体をプレゼントするなんて、なんて気持ちが悪いんだろう、とわりと真面目に考えていました。

 なので、ある程度、精神的に潔癖なところがあったのではないかと思います。最近は花束をみても、素直に「綺麗だな」と感じるので、ぬるくなったものだなと思います。

 学生生活はわりと普通というか、私自身はあまり喋らない、活動的ではない人間だったのですが、活発な友人がいて、彼に連れられてあれこれ参加する、という感じだったように思います。

 高校2年生くらいからは、夜中に家で小説を書き、学校では基本的に寝ている、という生活に自然と切り替わったように記憶しています。

 当時からはっきりと「小説家になりたい」という思いがあり、大学は大阪芸術大学の文芸学科を選びました。

質問2 大学生の頃は学業の他にどんな活動をされていましたか?


河野:文芸サークルと落語研究会に所属していました。

 ずっと小説家を目指していましたので、文芸サークルの方が主軸のつもりだったのですが、落語研究会の方で役員(会計を経て会長)になってしまったので、そちらで過ごす時間が長くなってしまったように思います。

 活動としては、文芸サークル用に小説を書くのが主で、落語研究会の方は裏方として最低限必要なことをする、という感じだったのですが、落語は口語文に特化した、とても稀有な文学作品だという意識があり、会話文を書く上での学びはあったように思います。

質問3 好きなクリエイターや影響を受けた作家さんは?


河野:私の文章表現のベースは、秋田禎信とスピッツでできています。

 秋田禎信は文章が少し英文の和訳っぽいというか、理屈優先で言葉が並んでいる印象で、私の文章もそういった傾向があるのではないかと思います。また、設定やキャラクターなどが物語のテーマ性と深く繋がっていて、そういった物語の作り方でも影響を受けています。

 スピッツの歌詞からは、比喩的な表現の面で影響を受けています。そのせいで比喩表現に、妙に動物を登場させたくなったりします。あとは、一般的にはネガティブな意味の言葉も使い方次第では反対にポジティブなものになる、という風な表現でも影響を受けています。

 また、プロット面では、乙一からの影響も大きいです。一時期は、意図的にプロット作りを学ぼうと、『失はれる物語』を繰り返し読みました。


乙一『失はれる物語』(角川文庫)


質問4 デビュー以降、「サクラダリセット」シリーズ『いなくなれ、群青』などを執筆してきた河野さんが、今回、初の単行本『昨日星を探した言い訳』を書かれたきっかけは?


河野: 小説を書いて生活するようになってから10年ほど経ったので、そろそろ私にとってベース(基盤)となる小説を書こう、と考えて書き始めました。

 他の企画であれば、「エンターテインメント的なプロットの面白さを第一にしよう」や「読み手には多少伝わりづらくても、私の価値観に則した文章表現を優先しよう」という風に、作品ごとにコンセプトを決めて書くのですが、今回はそういった方向性について一切考えず、とにかく私が考える小説というものの中心を書こうと決めていました。

 私にとって小説というのは、「書き手が、どんな視界で世界をみつめようとしているのか?」ということに対して誠実であるべきものです。今現在、私からみえている世界ではなく、よりよい視界で世界を眺めるために、高い山に登ろうとする行為が執筆なのだと思っています。

 どうやら私の興味は常に「本当に正しいものをみたい」という点にあるようで、小説を書くと自然とその点が主題になります。

 本作を書いたことで、「私はなにを正しいと感じるのか?(あるいはなにを誤りであると感じるのか?)」ということについての視界が広がったように思うので、そのことに非常に満足しています。


書影

河野裕『昨日星を探した言い訳』(KADOKAWA)


質問5 ご自身が思う、これまでの作品と本作の違いはどこでしょうか?


河野:成り立ち自体が「私のベースを書く」という、ある種特別なものだったので、純粋に他の原稿よりも時間をかけて、できるだけ丁寧に書きました。

 丁寧に書く、というのは、この場合は「より伝わりやすいように書く」という意味です。

 私はこれまで「私にとって美しい小説を書けていれば、それが多くの読み手には伝わらなくてもかまわない(わかる人だけわかれば良い)」という姿勢で執筆してきたのですが、今回は文章表現もストーリーも設定も、できる限りこちらの意図が正確に伝わるように書いたつもりです。

 心情としては、以前は「小説とは著者のエゴで書くもので、そのエゴを失うくらいならある程度の伝わりづらさは仕方ない」という考えだったのですが、最近になって「あれ? 丁寧に伝えようと努力しても意外とエゴは消えないな」と気づいた、という感じです。

 これまで長いあいだ、私の基盤はデビュー作だったのですが、私の意識の中ではそれを更新できたように思います。

質問6 作中の日本は、黒い目の人と緑色の目の人が暮らしていて、差別や偏見も存在する世界です。この「緑色の目」に何かモチーフはあったのでしょうか?


河野:それほど具体的なモチーフはありません。明確な現実の問題と直結しないものならなんでもよかったのですが、緑を選んだのは、なんとなくそれが優しさと切実さを兼ね合わせている色のような気がしたからです。

質問7 本作をどんな読者に読んでもらいたいですか?


河野:小説というのは、読もうとした全員に開かれているものだと思いますが、強いて言うなら「社会的な正義や倫理に興味がある人」と、「社会的な正義や倫理を語っている誰かの言葉に違和感を覚えたことがある人」です。

(文中敬称略)

▼河野裕『昨日星を探した言い訳』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322004000166/


昨日星を探した言い訳

試し読みはこちら(※画像をタップ)


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河野 裕

徳島県生まれ。大阪芸術大学卒業。兵庫県在住。大学在学中より神戸を拠点に活動するゲームデザイナー・作家集団、グループSNEに参加し、2009年角川スニーカー文庫より『サクラダリセット  CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY』でデビュー。主な著書に「サクラダリセット」シリーズ、「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズ、『ベイビー、グッドモーニング』『いなくなれ、群青』から始まる「階段島」シリーズなど。

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