第45回横溝正史ミステリ& ホラー大賞〈読者賞〉受賞作!
雨宮 酔『夢詣』が、2025年10月24日(金)ついに発売!
本記事では、同日発売となる角川ホラー文庫『ばくうどの悪夢』の著者・澤村伊智さんによるレビューをお届けします。
雨宮 酔『夢詣』レビュー
評者:澤村伊智
精神科医の紙森千里は、診察した外来患者から奇妙な話を聞く。
「呪いの夢を見てしまったので、わたしはもうすぐ死ぬんです」
夢の中で自分は小さな木船に乗って暗い海に出て、やがて奇妙な島の岩肌に開いた、不気味な洞窟へと入っていく。夢を見る毎にそうして小船が進んでいく。それを最後まで見た時に、自分は死ぬのだ――と、患者は言う。
その異様さに困惑しつつ、あくまで精神疾患の診察を続ける紙森に、患者は激昂。病院を飛び出し、三日後に原因不明の急死を遂げる。そして後日、紙森は入院中の患者から全く同じ夢を見たことを告げられ――
一方、オカルトライターの伊東壮太は、先輩ライターから「見たら死ぬ夢の噂を知らないか?」と訊ねられる。先輩ライターは直後に行方をくらませ、その後に不審死。彼の残した資料を調べ、彼が生前会っていた人物に取材するうち、伊東はかつてある孤島で行われていた「夢詣」なる奇怪な祭祀について知り――
『夢詣』は「見ると死ぬ夢」をストレートに扱ったホラーミステリ長編だ。「夢」という魅力的ではあるがあまりにも掴み所がなく、小説で書くことが困難な題材を、著者は丁寧かつ巧みに調理し、間口の広い娯楽作品に仕上げている。
「感染系」「民俗(学)」「患者の語る奇怪な夢」「謎を追うライター」「力を貸してくれる霊能者」などなど、構成要素の一つ一つは定番と言っていいが、その組み合わせ方にコロンブスの卵的な妙味があり、「こう来ましたか!」と愉しく読むことができる。「見ると死ぬ夢」そのものの描写も、予兆と不穏の横溢した前半から、多くの読者の生理に訴えるであろう気持ち悪い後半(しかもきっちり視覚的に「タイムリミット」を感じさせる)まで、さりげなく上手い。また、序盤に盛り込まれた精神医療についての細部の描写には、ホラーというジャンルにおいてこうした分野を扱うことについての、著者の慎重な姿勢が感じられる。
「見ると死ぬ夢を見てしまう条件は何か?」
「見ると死ぬ夢とは何なのか? どこからやって来たのか?」
「夢の結末には何が待っているのか?」
「紙森と伊東の物語はいつ、どのように交わるのか?」
「死を回避する方法はあるのか? あるとしたらどんなものか?」
「それが見つかったとして間に合うのか?」
「紙森の亡き母が残した言葉の意味は?」
……と、序盤から矢継ぎ早に、手際よく複数の謎を提示する手法は、さながらハリウッド製の超常サスペンスドラマのようで、しかもそのスリルは決して途中で途絶えることがない。ツイスト、サプライズといったミステリ部分については多くを明かすことができないが、これもまた「こう来ましたか!」と唸らされたことだけは書いても構わないだろう。現代日本ホラー小説の新定番として、また本邦ホラーミステリの現在地として、多くの人に勧めたい。
作品紹介
書 名:夢詣
著 者:雨宮 酔
発売日:2025年10月24日
第45回横溝正史ミステリ&ホラー大賞読者賞受賞作!
その悪夢、見れば、死ぬ――
”順番”が来るまでに、解呪の鍵を探し出せ。
「もうすぐ私が御血をいただける順番です」
“死に至る夢”を見ると訴えていた女性と老人が突然死し、
老人の胃から人外の血液が発見された。
2人の患者の死後、精神科医・紙森千里にも悪夢は「感染」り、
謎の儀式に参列する夢を見る。
一方、都市伝説〈呪夢〉を追うオカルトライターの伊東壮太 は、
死亡した同業者のメモ「鍵は夢詣」からある孤島の奇妙な祭祀の存在を知り――。
書店員からの圧倒的支持を受けた、
第45回横溝正史ミステリ& ホラー大賞〈読者賞〉受賞作。
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