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連載

王谷 晶「食う寝る処にファンダンゴ」 vol.1

女の生き様をヴィヴィッドに描くいま最注目の著者、新連載! 住み家を失った/失いかけて、切実な状況下の女たちの行く末は!?「食う寝る処にファンダンゴ」#1-1

王谷 晶「食う寝る処にファンダンゴ」


 みやひめぼうぜんとしていた。リュックサックを背に、紺色のデッキシューズでずりずりと地面をこすりながら歩き続けている。しかし、行き先はない。行きたい場所もない。たった今、生まれてから二十八年間過ごした実家を出てきたばかりのところ。
 姫香は家が好きだった。正確には、自宅にある四畳の自分の部屋が大好きだった。ベッド、小学生の時からある学習机、タンス、十四インチの液晶テレビ、本棚代わりのカラーボックス二つ。主な構成物はそれだけのはずなのだが、なぜか常にごちゃごちゃと散らかっていて狭かった。しかし姫香にとってはこの世で最も落ち着ける、安全で安心な場所だった。一生をそこで終えたかった。可能なら、部屋の外にも出ずに生きていきたかった。
 荷物が重い。リュックと接している部分の服が汗で濡れて気持ち悪い。今日の気温は一般的には肌寒いくらいだったが、姫香は暑がりで、そのうえみっちりとふとっていた。生え際に汗が浮かんでくるのを感じながら、うつむいてただ歩く。息があがってきた。こんなに長く外を歩くのは数ヶ月ぶりになる。
 突然、背後からわーんという子供の泣き声が聞こえて、びくっと身をこわらせ立ち止まる。すぐにチャイルドシートを装備した電動自転車が姫香を追い越し、走り去っていった。漕いでいる女性のきれいな空色のカーディガンの背中に、つやつやしたポニーテールが揺れている。
 顔の前に垂れ下がっている自分の髪をつまんだ。ぼさぼさしているのにあぶらっぽくて、ぎくしゃくとうねっている。ふと周りを見ると、街を歩く人たちはみな明るい色の軽そうな服装をしている。上着を着ていない人もいる。春になっていたのだ。いつの間にか。知らないあいだに。
 一度立ち止まると、汗がどんどん出てきて、疲れも感じて、もう歩きたくないと思ってしまう。おそるおそる振り返ると、高台にある姫香の家の屋根がまだ見えていた。たったこれだけしか離れてない。こんなに歩いたのに……。
 ぼんやりと突っ立っている姫香にいぶかしげな視線を投げながら、スーツ姿の若い男性がすたすたと歩いていく。ジャージ姿の高校生の集団も、腰を曲げて車輪付きのカートに寄り掛かるようにしてゆっくりゆっくり歩いているおばあさんも、どんどん目の前を通り過ぎていく。
 みんな行くところがある。その場所に向かって歩いている。
 姫香は「ごくつぶし」だ。何年か前のお正月に父方の祖父が酔っ払ってそう言ったので、以来自分をそう分類している。じっさい、学生でもないし、会社員でもないし、まるきり引きこもっているわけでもない。自分のような存在を何と呼ぶのか、祖父に言われるまで姫香も悩んでいた。だから、正直ちょっと安心したのだ。
 ああそうか、わたしは穀潰しなんだ。なんでもないものじゃなくて、ちゃんと穀潰しっていう、わたしを言い表す言葉があるんだ。
 姫香は現在無職だが、働いた経験はある。今まで就いた仕事は日雇い派遣を含めると十種をくだらない。まず高校を卒業後、地元のスーパーに就職した。早番遅番のシフト勤務だったが、何日何時に出勤して何日に休みかという自分のシフトがどうしても覚えられなくて、無断欠勤しそうになったり休日出勤しそうになるミスや遅刻を何度もやらかした。途中でカレンダー付きの手帳にシフトを書き写すことを覚えたが、それでも一日ずれて写したりしてしまうため、欠勤や遅刻は減らず、結局一年もたずにクビになった。
 次は土日休みの町工場でバイトを始めたが、二ダースごとたばにする商品を一束分数え終えるのに十分も二十分もかかってしまい、今度は一ヶ月でもう来なくていいと言われた。なまけていたわけではない。一つ、二つ……と数えていって、十を越したあたりでどんなに集中しようとしていてもふっと気が遠くなり、床のペンキのシミが人の顔に見えたり事務のムナカタさんの笑い声が鶏のようなのが気になったりしてしまい、そして、どこまで数えていたか忘れてしまうのだ。
 この時点でもう働くのが(というより職場で人に迷惑をかけたり怒られたりするのが)怖くなっていたが、家に居ると五歳上の兄が働けと叱ってくるので、日雇い派遣の会社に登録しとにかく短期間でも仕事を探そうとした。これはわりとうまく行って、目の前を車が通るたびに機械をカチッと押せばいい交通量調査の仕事や、大きな倉庫の床を電動モップで端から端まで磨いていく仕事などは問題なくこなせたし、丁寧だとめられすらした。しかし、そういう仕事は毎日あるわけではない。やがて段ボール箱に決まった商品を決まった数詰める仕事や電話応対の仕事など、苦手でしょうがない案件も紹介されるようになり、派遣会社から来るメールや電話を無視するようになった。
 兄からは嫌味を言われ続けたが、それ以上に姫香自身がショックを受けていた。自分は仕事ができない。高校生が難なくこなしているようなバイトすら続けられない。それは、このさき、生きていけないということなのでは? それまで想像もしていなかった将来の不安というやつが、雪崩なだれのように姫香の頭に押し寄せてきた。働くのは怖い。でも働かないのも怖い。お兄ちゃんも怒る。お母さんにもお父さんにも申し訳ない。でも部屋から出たくない。部屋から出ないで働きたい。でもそんな仕事はない。パソコンもできない。絵も描けない。家事もろくにしたことがない。特技は何もない。どこかの誰かに雇ってもらわないとお金がもらえないのに、それができない。
 そんな風に一年経ち、二年経ち、いつの間にか高校を卒業してから、十年の月日が過ぎていた。
 空は薄曇り。さーっと風が吹いて、汗をかいた身体からだは急に冷えを感じる。再びのろのろと歩き始めるけれど、やっぱりどこに行けばいいのかは分からない。でも、家から離れないと。腹の奥のほうがずんと重く、背中がどんどん丸まっていく。ひらたく言うと落ち込んでいる、のかもしれないけれど、ここ十年ほとんど毎日こんな感じなので、この重っ苦しい状態は姫香の「ふつう」になっていた。
 夜になったら、家の誰かは自分のことを探し始めるだろうか。部屋に置いてきた手紙はちゃんと読んで貰えるだろうか。『他の町へ行って働いて一人で暮らします。元気にがんばります』。便びんせんの一行目にそう書いて、続きを書こうとしたけれど、他に言いたいことは何も出てこなかった。なのでがらんとしたその便箋を学習机に置いて、静かに出てきた。
 ドラマや漫画で「居場所がないの!」と涙する登場人物たちを見るたび、よく分からないと思っていた。だってあなたそこに居るのに、と。テレビの前の座布団の上でそれを見ている姫香にだって居場所がある。ここだ。足の裏かお尻が地面にくっついてれば、そこが居場所。人は急に宙に浮いたりしないから、居場所は誰にでも常に絶対にある。
 しかし生まれて二十八年目の今日、初めて分かった。居場所が無くなることはある。二本の足を地面に着けていても、生まれ育った家があっても、自分が居てもいい場所が無くなってしまうことがあるのを知った。
 時計もなく、携帯もないので今が何時なのかも分からない。高校を卒業したときこれからは仕事で使うだろうからと父が家族割でスマートフォンを契約してくれたが、五年ほど前に兄の勧めで解約していた。実際、無くても何も困らなかった。でもいまあのスマホがあったら、どこへ行けばいいか調べられたかもしれない。
 早く家の屋根が見えないところまで行きたくて、姫香は知らない横道に入った。
 知らない道の両脇に、知らない家が立ち並んでいて、その先も、知らないどこかに繫がっているようだった。
 ああ、そうだ。手紙に「ごめんなさい」を書くのを忘れた。
 わずかなカーブを描きながら長く長く続いているその道を見て、姫香の目になぜかじわっと涙が浮かんだ。泣くのなんて、十数年ぶりのことだった。

 
 
  ざわは呆然としていた。白いシャツ、ベージュのカーディガン、ネイビーのワイドパンツに同じ色のバレエシューズを履いて首からIDカードを下げて、ボルドーの合皮のベルトの腕時計をして、肌に溶け込みそうな細い細いゴールドのネックレスを着けて、前髪を横に流してセットしたショートボブの髪で、ブラウンと薄いピンクのみ使ったメイクの顔で、呆然としていた。たった今、あと三ヶ月と二週間で三年目の派遣先から、契約の打ち切りを申し渡されたところ。
「どうしてですか」
 思わずそう声に出していた。広いオフィスフロアの端に四つある会議室の一番奥の部屋で、上司の顔を見ながら。二人の間には青いバインダーがひとつ置かれているが、話の最初から現在までそれは触れられもしていない。芽衣子は知っていた。その中には自分の履歴書と、二年八ヶ月と二週間分の勤務評定が収まっていることを。
 仕事ぶりは問題ないはずだ。大きなミスをしたことは一度もなく、小さなミスも指摘されればすぐ謝り訂正し二度と繰り返さず、自分で自分のミスを見つけたときは人に言われる前に即座に報告した。欠勤遅刻はゼロで、毎日始業十五分前には出勤し十分前にはフロアに入り五分前には自分のデスクの掃除を済ませて朝礼が始まるのを待っている。服装も言葉遣いもきちんとし、社員や同僚と笑顔で挨拶を交わし、昼休みには同じ派遣社員たちと談笑しながらお弁当を食べ、連休明けにはどこにも行っていなくてもお菓子を買って休憩室で配った。歓送迎会にも出た。忘年会にも出た。サラダを取り分けた。おしやくもした。産休に入る社員にいまばりタオルのハンカチもプレゼントした。
「どうしてっていうか、ねえ」
 なぜかうっすらと、困ったようなうんざりしたような笑いを唇に浮かべながら、上司のくまもとり跡の濃いあごをこすった。
「ま、もう決まっちゃったことだし……派遣会社さんのほうは、田澤さんに紹介したいいい仕事があるって言ってたよ。聞いてない?」
 芽衣子は首を横に振った。いい仕事なんて。ここがいい仕事だったのに。山手線駅近の、地下鉄駅も使える、高層ビルの近代的なオフィス。一階にナチュラルローソンとスタバが入っていて、エントランスの前はタイル敷きのちょっとした広場になっていて、街路樹が植えられ、モダンなブロンズのオブジェが置かれ、どこからどう見ても都会の、東京の会社だということが分かる最高の職場。
「ま、そういうことだから……あと二週間よろしく」
 そう言って熊本はバインダーを持って席をたちさっさと会議室を出ていってしまった。
 あと二週間したら、あのバインダーの中身、捨てられるんだ。
 そう思った瞬間、芽衣子は思い切り叫びそうになった。すんでのところで思いとどまったけれど、ガラス窓をぶち破るくらいに叫びたかった。
 それから終業時間まで、まるでプールのあと耳に水が入って出てこないときのように、頭をぼわーんとさせながら芽衣子は自分の……まだ自分のものであるデスクに座っていた。悲しいかな、日々繰り返すルーティン作業はどんなに辛くても泣きたくても叫びたくても手が勝手に動いて見事に処理してしまう。キーボードを打つ手を止めてふと顔を上げると、デスクにかじりつく派遣と契約社員たちの横で、熊本と社員のたかが楽しそうに談笑していた。白いシャツ、グレーのカーディガン、細いゴールドのネックレスを着けた三鷹と一瞬、目が合う。すると三鷹はさっと笑顔を強張らせ、芽衣子から顔をそむけるように背中を向けた。
 胃が痛い。おなかが痛い。終業すると同時に、タイムカードを押してトイレに駆け込んだ。身体が冷え切っているのに、こめかみに汗が浮いてくる。
 するとドアが開く音がして、数人がしやべりながらトイレに入ってきた。たぶん、いつも会社を出る前になぜか歯磨きをしている三人組だ。
「ていうかアキちゃんほんと良かったね~嬉しいよあたしたちも。契約の人増えて」
 と、ひときわ大きい声で喋っているのは契約社員のボス的存在であるうえだ。
「嬉しいです~これからもよろしくお願いしますー」
 応えているのは、芽衣子と同じ派遣会社から来ているじろという二十代の子だろう。
「でも、私、まだ一年も働いてないのにほんとにいいんですかね? 契約にしてもらっちゃって……」
「大丈夫だって、それだけアキちゃんが戦力になるってことでしょ」
「でもー、私より長く働いてる派遣の人、やな気分にならないかなあって……」
「あー、田澤さんとか?」
 ずばりと名前を出され、芽衣子は便器の上で自分の口を手でふさいで硬直した。
「田澤さん、ちょっと怖いよね」
 低い声が早口で言う。おたく女子のおおつかだ。
「怖い怖い。見た? 今日も三鷹さんと服装もろかぶりなの。怖いっていうか若干気持ち悪いよね。三鷹さんの前はホラ、あの今産休取ってる人のマネばっかりしてたでしょ」
「ストーカー?」
「女同士で? 気持ち悪……」
 芽衣子は口をがちがちに押さえて、三人が歯磨きを終えて出ていくまで個室の中でじっとしていた。泣いてしまうかも、と思ったけれど涙は出なかった。
 会社を出たところで、携帯に電話がかかってきた。派遣会社の担当者からだった。
『どうも、お疲れ様です。田澤さん今ちょっといいですか?』
 話の内容は、改めて今の会社はあと二週間で契約が終わるということ、次の派遣先のおすすめがあるということだった。
『西武線のいる駅って分かります? そこの製造業のお仕事なんですけど』
「入間って……埼玉ですよね」
『はい。で、現場は駅からバスに乗ってもらって二十分くらいのところにあるんですけど』
「駅から二十分?!」
 最悪だ。そもそも埼玉なんかで働くつもりはないけれど、そのうえ駅からバスで二十分だなんて。
『で、その工場でぜひ田澤さんに来月から勤務してもらえればと思ってまして』
「……仕事の内容は、事務ですか? 受付とか、電話対応とかですか」
『あー、ラインって分かります? ベルトコンベアで流れてくる商品を扱うやつ』
 反射的に通話を切っていた。
 呼吸が浅くなる。埼玉のライン工。
「絶対に嫌……」
 びゅう、とビル風が芽衣子のワイドパンツをはためかせる。
「絶対に嫌……」
 俯いて、肩を強張らせながら、地下鉄に乗り家に帰る。自分の足先以外何も目に入らなかったけど、それでも自動運転のようにまっすぐ家に帰れる。この二年と八ヶ月と二週間、それしかしてこなかったから。仕事が終わったあとどこかに寄り道なんて、一度もしなかったから。
 最寄り駅の一つ前で降り、はくさん通りを少し歩く。上下合わせて六車線の道を走る車の騒音を聞きながら、古くからある商店や大きなマンションの前を足早に通り過ぎる。
 その中の一軒の店の前で、芽衣子はいつも通りほんの少し足を止めた。店頭に開いたメニューが置かれた台があり、そこに「本日のディナーコース」と書かれている。五千円と九千円のコースの内容までは読めない。長時間立ち止まっていたら不審に思われるかもしれない。それでも毎日、この一瞬で、レースのカーテンがかかった窓の向こうの白熱灯の照明と、わずかに見えるテーブルや椅子、壁に飾られた小さな絵を目に焼き付けて去る。そこは洋画に出てくるような、こぢんまりとして大人っぽい、上品できれいなレストランだった。芽衣子が子供のころから夢見ていた「おしゃれなお店」そのままの店だった。この一瞬のために、一駅前で降り続けている。中に入ったことは、一度もない。一食に五千円も九千円も使えないし、きっとこういう店は一人で食事する場所ではないはずだ。だからいつか。時が来たら。機会があったら……。毎日そう思っている。
 そのまま歩き続けると、だんだん町並みにチェーンのファストフード店やコンビニが増えていく。牛丼店の角を曲がって、住宅街に入りまた少し歩く。やがて四階建ての古いビルに着き、玄関ドアのナンバーキーを押し中に入る。
 小さな玄関はいつも通り空気がよどんでいて、カビとほこりと十数人分の靴の臭いが霧のように満ちていた。息を止めてそこを突っ切って、キッチンに入る。巨大な冷蔵庫を開けると、今朝まで絶対にあったはずのアロエヨーグルトが消えていた。
 夕飯を諦め、階段で三階まで上がる。廊下は薄暗く、トイレの臭いと消毒液の臭いが同じくらいの濃度でうっすら漂っている。自分の部屋の鍵を開けると、明かりもつけずにベッドの上に倒れ込んだ。
 変形三畳半、パイプベッドとカラーボックス付き、光熱費Wi-Fi代共有費込み月六万五千円のシェアハウス。保証人不要。敷金礼金ゼロ。シャワーのみ。トイレ共用。でも、住所はぶんきよう区。履歴書にも身分証にも、文京区と書ける。文豪の街、文化の街、アカデミックな街。文京区にはそういうイメージがあるのを知っていたから、数多あまたあるシェアハウスの中からここを選んだ。道を挟んだ向こうはすぐしま区だが。小さなガラス窓から、向かいのラブホテルの看板のギラギラしたネオンの明かりが入ってくる。
 隣の部屋の男がうるさいゲームで遊んでいるのが、まるで同じ部屋にいるみたいにクリアに聞こえる。何度壁を殴っても爆弾や銃や人の叫び声がひっきりなしに続くこの嫌なゲームをめてくれない。見上げた天井の隅には黒いカビが不気味な模様を描いていて、それはどんどん広がっていっている。
 派遣で三年働いて晴れて契約社員になったら、絶対に引っ越す計画だった。安くても狭くても古くてもいい。普通のアパート。自分だけのキッチンと清潔なトイレとお風呂場のある物件。隣の住人の舌打ちの音が聞こえてこない部屋。冷蔵庫から自分の食べ物が盗まれない部屋。そんな場所に引っ越せたら、やっと芽衣子の夢はかなう。
 東京のOL。都会で働く大人の女。なりたいのはそれだけ。
 そうなるためにひたすら努力した。決死の覚悟で家を出てきた。資格も取った。服装もメイクも持ち物も周囲を観察してちゃんとそれっぽく見える物を買い揃えた。
 芽衣子は駅ビルで買った千二百八十円の腕時計を外し、イオンの千五百円のハンドバッグをベッドの下に蹴落とし、三百円ショップのイヤリングを外して壁に投げつけ、百均のネイルで塗った爪で頭をきむしり、ドラッグストアのプチプラコスメで塗りあげた顔をくしゃくしゃにして泣きはじめた。
 どうしてなの。外資系の総合職になろうなんて思ってない。受付嬢や広告会社のキラキラOLになろうとも思ってない。ただの都会のOL、そこらじゅうで見かけるああいう女に、私もなりたいだけなのに。
 涙の膜の向こう、ピンクのネオンに照らされて百均のカレンダーの文字が浮かび上がる。今の仕事の手取りは十四万円。貯金なんて無い。次の仕事を決めないと、来月にはこのゴミ溜めみたいな部屋にすら居られなくなる。でも入間は嫌。埼玉は嫌。東京で働きたい。東京のOLになりたい。それだけ。それだけなのに……。

#1-2へつづく
◎第 1 回全文は「カドブンノベル」2020年1月号でお楽しみいただけます!


「カドブンノベル」2020年1月号

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