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角川文庫キャラ文通信

【キャラホラ通信5月号】『地獄くらやみ花もなき』刊行記念 路生よるインタビュー

角川文庫キャラ文通信

第3回角川文庫キャラクター小説大賞で書店員に絶賛され読者賞を受賞した、路生(みちお)よるさん『地獄くらやみ花もなき』。人知れぬ洋館で「悩み相談」を受ける美少年と、人生に絶望したニートの青年が、罪を背負った人々を地獄に送るという、雅で妖艶な本格ミステリーの成り立ちを、第5回富士見ラノベ文芸大賞〈審査員特別賞〉を同時受賞し作家デビューする路生さんに語っていただきました。

カドブンでは、明日29日(火)より本作の試し読みを配信いたします! お楽しみに!

――本作は、第3回角川文庫キャラクター小説大賞〈読者賞〉受賞作です。本になりいよいよ発売を迎えるわけですが、今のお気持ちは?

路生:「地獄くらやみ花もなき」という物語を〈小説〉の形にするまでは、作者である私の仕事だったわけですが、〈本〉にするのは担当してくださった編集の方や装画を手がけてくださったアオジマイコ様のお仕事でしたので、近頃では「おお、すごい」と感動してばかりでした。そして、その本を〈商品〉にしてくださったのは全国の書店員の方々ですので、今は感謝の気持ちしかありません。本当にありがとうございました。

――人間ドラマであり、本格的なミステリーでもあり、伝奇的な要素もある本作は、どのような着想から生まれたのでしょうか。

路生:当時のメモを見ると、冒頭に〈地獄代行=地獄出張所=火車〉と走り書きがあります。どうやら〈特別に罪深い者は、生者である内にも地獄から直々に火車の迎えが来ることがある〉という逸話が、着想のヒントになっているようです。
 では一体どんな罪人を迎えに来るのか――と考えた時に、人(=警察・裁判所)が人(=犯人)を裁くことが、あるべき姿とするならば、何らかの理由によって司法の裁きを逃れた罪人こそが、火車に迎えられて欲しいと思いました。
 それが、次の〈隠蔽された罪を暴くことに特化したミステリー〉というメモに繋がったようです。この時点で、ミステリーと伝奇の融合が始まっていますね。

――本作で描かれる化け物に憑かれた人々に悩みや葛藤は非常にリアルです。一方、青児(せいじ)(しろし)を始めとした主要人物は、非常に軽快で魅力的なキャラクターとなっています。その書き分けが見事ですが、キャラクターを描くことで特に気を付けていることはありますか?

路生:作中に登場する犯人――化け物に憑かれた人々は、基本的に人として描いています。また、あくまで人の範疇におさまるよう、共感可能な人物として描くことに注力しました。なぜなら、この作品を通じて描きたかったのが、極悪人の所業ではなく、アナタやワタシにもあるような人の業だったからです。
 対して、探偵役の皓やライバルである棘は、基本的に人外として描いています。外見的には人ですが、本来そなわっているはずの感情の幾つかが欠落した存在です。
 夜に自己嫌悪で苦しんで、実は周りに嫌われているんじゃないかと悩んでみたり、幸運に恵まれた仲間に嫉妬している事に気づかれないよう、わざと声高に褒めちぎってみたり、話の輪から仲間が一人抜けた途端に「あの子ってさあ」と声をひそめてみたり……というような事は一切できません。その反面、淋しさ、誇り、怒り、悲しみ、愛情といった根源的な情感については、より純度が高くなっているので、そこが魅力的に映ることもあるかと思います。
 しかし作者としては、曖昧模糊として一筋縄ではいかない、一瞬前には善人だったのに、その一瞬後には悪人になる、そういうマーブル模様に濁ったところが人の魅力ではないかと思っています。
 例外的に、主人公の青児は人ではあるものの、「かろうじて大人にはなったけれど致命的に何かが欠けている人物」としてデザインしたので、周囲からはぐれ者として白眼視されています。だからこそ半人半妖として同じはぐれ者である皓と寄り添っていけるのではないかと思っています。

――そんなキャラクターたちが活躍する本作のストーリーは、キャラクター小説でありながら、本格的なミステリーでもあります。事件、謎、推理を考えるうえで特に注意している点、意識しているポイントはありますか?

路生:実は〈本格的なミステリー〉として意識し始めたのは、現在執筆中の「地獄くらやみ花もなき」の2巻(今秋発売予定)からです。1巻では、ミステリー小説であることよりもキャラクター小説であることに重きを置いて、あまりミステリーとしてのロジックにはこだわらずに、面白さの間口を広げたいと思いました。そのため意表を突くトリックや衝撃的な動機なんかは、とりあえず封印しています。
 ただ、代わりになりそうな面白さはご用意しました。
 本作をお読みいただければわかると思いますが、〈主人公を怯えさせる鏡の存在〉〈昼夜を問わずに鳴く鵺の声〉〈死にゆく少女が口ずさんだ童歌〉など、さまざまに謎が用意され、ミステリーとしての答えに辿り着けば、同時に〈読んで面白い妖怪学的知識〉や〈ヒューマンドラマ〉に繋がるようになっています。そんな一筋縄ではいかない複合的な面白さがより合わさって生まれたのが、今回の〈事件、謎、推理〉ではないかと思っています。

――第5回富士見ラノベ文芸大賞〈審査員特別賞〉を受賞した『折紙堂来客帖 折り紙の思ひ出、紐解きます。』(富士見L文庫)が6月15日に発売になりますね。こちらはどういった物語でしょうか。

路生:「折り紙に導かれ、誰かを想う悩みはあたたかな真実へとたどりつく――」というキャッチコピーをつけていただきましたが、まさにこの一言に集約されていると思います。
 内容としては〈現代を舞台にした人とあやかしの触れ合いを描いた作品〉であり、〈折り紙の知識によって謎を解くコージーミステリー〉であり、〈一人の男子高校生が、少女との出会いを機に自分の過去と向き合い、真実に辿り着くまでの成長物語〉でもあります。
 人と関わっていれば、目をそむけたくなることもあれば、優しさに泣きたくなることもあって、そんな人という存在の側面を描きたかったという点では、根幹的なところが本作と似通った作品だと思っています。

――最後に、読者に一言メッセージをお願いします。

路生:この「地獄くらやみ花もなき」という作品には〈読者賞〉という賞をいただきました。この本には、審査員の先生方をうならせるような技巧や才能もなければ、もちろん文学的な価値なんかもありません。ただ読者の方に読んで楽しんでいただくためだけに書かれた本ですし、〈読者賞〉を与えられた事で、そういうあり方を許された本なのだと思っています。全国の書店員モニターの方々に〈読者〉として、ただ読んで楽しんでもらえたということが、本当に嬉しかったです。
 たとえ100年後には跡形もなくなっている作品だとしても、今、ただ読み物として楽しんでいただけたら、これほど幸せなことはありません。書店でお目にとまりましたら、どうぞよろしくお願いします。


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