【第213回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第213回】柚月裕子『誓いの証言』
もともと、弁護士という社会的信用を背負っている者が逮捕されただけでも、マスコミは大きく報道する。それが起訴ともなれば、騒がないはずはない。
起訴されたからといって、久保がユウカが言っているような罪を犯したことにはならない。しかし、多くの者は被疑者が起訴された時点で、あいつが犯人だ、と決めつける。それは、日本の場合、検察が起訴したら有罪率九十九・九パーセントだからだ。たしかにすごい数字だが、百パーセントではない。わずかだが、被告人が無罪の可能性もある。
だが世間はもう、正義を背負っているはずの弁護士が罪を犯した、と責めている。それに、インターネットの投稿に関する問題が加わり、この事件は時間が経ったいまでも社会の関心を集めていた。
佐方は自分の腕時計を見た。午前九時四十五分。公判開始は十時だ。
頭を整理するために、腕を組んで目を瞑る。そのあとすぐに、小坂が話しかけてきた。
「先生、あの人」
佐方は目を開けた。苦い顔で小坂を見る。
「いま気持ちを集中させているんだ。邪魔をしないでくれ」
小坂は不機嫌な佐方にかまわず、目で傍聴席の後方を指す。
「ほら、あそこにいる人、久保さんの奥さんじゃないですか」
言われて、小坂の視線を追う。たしかに舞衣だった。傍聴席の後ろの隅で、前を睨むように座っている。
このひと月半のあいだに、小坂は何度か久保の家を訪ねて舞衣に会っている。舞衣は勾留中の久保に、一度も会いに行っていない。届け物や久保からの伝言があると、佐方や小坂があいだに入ってやり取りしていた。
(つづく)
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