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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.6

【第166回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第166回】柚月裕子『誓いの証言』

 ふたりの様子は、丁場の人間や家族から耳にしていた。
 原じいは石が手に入らないため仕事ができず、日中から酒びたりになっている、とか、晶は小学校で友達ができず休みがちだ、とか、聞こえてくるのは、そんな気が沈む話ばかりだった。
 束の間、この場から気持ちが離れていたのだろう。肩を叩かれて我に返った。
「どうした、ぼうっとして」
 勝也だった。
 そのとなりで加藤が言う。
「児玉さんの言うとおり、かなりお疲れなんでしょう。どうです、このあと食事でも。フェアの成功を祝して、ご馳走します。そうだ、よろしければ平尾先生もご一緒に。このあいだお会いしたときに、フェアの打ち上げをするなら声をかけてほしい、とおっしゃっていましたから、きっといらっしゃいますよ」
 平尾。その名前に、大橋の気持ちが重くなる。平尾雄二、高松市内に個人弁護士事務所を構えている男で、蕃永石事業協同組合の顧問弁護士だ。大橋は心のなかで、勝也に忠実な犬、と呼んでいる。
 はじめて大橋の家に平尾が来たときのことは、二年が経とうとしているいまでも鮮明に覚えている。
 大橋の家の客間に、いままで生きてきたなかでなにひとつ悪事は働いていない、といったような清々しい顔で座っていた。その横には、当時、事務所で働いていた新人弁護士がいた。凜々しい顔つきだが、まだ青臭いところも残っている青年で、名前は久保。下の名前はなんだっただろう。
 考えていると、勝也が嬉しそうに加藤に答えた。
「それはいい。ぜひ平尾先生も呼ぼう。このところ忙しくて、ゆっくり会う時間がなかったんだ。なあ」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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