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連載

コロナの時代の読書〜私たちは何を読むべきか vol.15

強い心を持つための、強い小説――桐野夏生【コロナの時代の読書】

コロナの時代の読書〜私たちは何を読むべきか

文字と想像力があれば、人はどこにでも行ける。
世界の見え方が変わる一冊、ここにあります。

桐野夏生さんが選んだ一冊

『贖罪 ナチス副総統ルドルフ・ヘスの戦争

吉田喜重・著/文藝春秋 
https://bookwalker.jp/dea5ed29cf-8ef7-4131-8572-6ac1bc862e35/



 新しい時代や価値観に合わせる読書なんて存在しない。好きなものを読んで、好きに生きればいい。でなければ、強い心が持てない。迎合しないためにも是非、この本、吉田喜重の『贖罪』を読んでほしい。
 吉田喜重は言わずと知れた映画監督だが、87歳にして初めての小説を上梓した。
 その端緒は、10歳の頃に読んだルドルフ・ヘスの新聞記事だった。ヒトラーの秘書役、ナチス副総裁だったヘスは、1941年にメッサーシュミット機を操縦してイギリスに一人渡り、逮捕される。戦後、ニュルンベルク裁判で終身刑の判決を受けた後、彼だけは一人、41年にわたって刑務所に収監されたまま、九十三歳で自死する。「奇行」と言われたヘスの行動は、謎に包まれたままだった。
 だが今、80年近くの時を経て、ルドルフ・ヘスは吉田喜重の手になる手記として蘇った。時間を超え、国を超え、同じ人間として、緻密な取材と想像力を駆使して一人の人間の奇妙な生を書く。しかし、本書は、ネオナチの信奉を集めるというヘスを崇めるものではない。誰も決めつけることのできない、人生の偶然と不確かさを描いているのだ。これぞ強い心を持つための、強い小説である。

桐野夏生(きりの・なつお)
1998年『OUT』で日本推理作家協会賞、99年『柔らかな頰』で直木賞、08年『東京島』で谷崎潤一郎賞、09年『女神記』で紫式部文学賞、10年『ナニカアル』で島清恋愛文学賞、11年同作で読売文学賞を受賞。近著に『ロンリネス』『とめどなく囁く』など。


みなさんもぜひ「コロナの時代に読んで欲しい本」を投稿してください。
ご応募はこちらから→https://kakuyomu.jp/special/entry/readingguide_2020


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