臨場感あふれる災害レポート!?――姫野カオルコ【コロナの時代の読書】
コロナの時代の読書〜私たちは何を読むべきか
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文字と想像力があれば、人はどこにでも行ける。
世界の見え方が変わる一冊、ここにあります。
姫野カオルコさんが選んだ一冊
『方丈記 現代語訳付き』
鴨長明 ・著 簗瀬一雄 ・訳注/角川ソフィア文庫
https://bookwalker.jp/decaa2696d-f021-436d-a629-0334df4356cb/
「ゆく河の流れは絶えずして……」の書き出しが有名な『方丈記』。「無常観」が表現されていますと高校で習った人も多いと思う。
髪型がキマってるか、鏡の前で時間かけてチェックして、数学英語物理やって体育やって部活もやって、廊下とか駅でサトウユウナとすれちがいざま、あるいはタカハシヒロヤとすれちがいざま、自分はかっこよく見えたかどうかが最大の問題である高校生が、「無常観」なんて言われたってね。「げ、ひでえ」ってことを漢字で書くと「無情」だけど、「無常」って何だよ、って思うよね。
いきなり「無常観」なんて言われたものだから、大人になっても、『方丈記』というのは、昔のジジイが河べりで、じーっと座って水の流れに目を細めてる話だと思ってたりしないか?
そういう話ではない。これ書いた時の作者は松田聖子や石塚英彦と同い年で、あちこちよく動き回る。崖もぴょんぴょんクライミングしちゃって、京都府から滋賀県まで散歩して、臨場感あふれるレポートをしている。
とくに災害については、首都で大火事があって国会議事堂まで焼けた、首都に竜巻がおきて家が吹き飛んだ、全国で米もカップ麺もパンも手に入らなくなって餓死者がいっぱい出た、首都にマグニチュード6級の大地震がおこって海水が押し寄せてきた、等々、倒壊した建物の数や火の燃え移り方や、死体の状態や死臭も、実地観察しての報告をしている。
しかも、このジイさん、怒りっぽいんだよね。人事異動が希望どおりにいかないと、「そんなら、もういいっ」と会議室から飛び出しちゃって、会長がなだめてくれてるのに、「どうせオイラは、みなしごさ」とツイッターに拗ねた腹立ちを連続投稿……したような『方丈記』は、有名な書き出しの、その先もお読みになるのを、おすすめします。原文で大丈夫!『枕草子』よりずっと現代文に近いから。
姫野カオルコ(小説家)
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