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連載

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」 vol.42

【連載小説】猛はいったいどこに? 捜しに行ったビルは半分崩壊していて……。赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」#11-2

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」

※本記事は連載小説です。

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15 途中

「え? これ?」
 と、有里が言った。
「久我の言ってた、周囲の様子からすると、この建物としか思えないけどな」
 と、村上がメモを見ながら言った。「しかし……」
「だってもう半分壊れてるよ」
 確かに、その三階建のビルは、建物の半分が、巨大怪獣にでもかじられたのかという様子で、失くなっていた。解体に使う重機が置かれたままになっていて、何かの事情で解体工事が中断したものと思えた。
「──ここで手掛りがなかったら、お手上げだな」
 と、村上は首を振って言った。
 入院している久我を脅しつけるようにして、おお猛がどこにいるか、訊き出そうとしたのである。
 久我は、そこまで宗方の仕事については知らないようだったが──。
「何やら、けが人とか病人が出たとき、連れて行かれた場所がある」
 というので、そこを調べてみることにした。
 久我が憶えていたのは三か所で、一つはもう全く別のビルになっていて、もう一つは今にもぺちゃんこになりそうな、古い空家。
 その中に入ってみたが、猛はいなかった。
 そして、久我の言った最後の一つが、この半分壊れたビルだった。
「危いな。ちゃんと囲いもしないで」
 と、村上は言った。
「捜すっていっても、どこから入るの?」
 と、有里は言った。
「うん……。まず、ここでもなさそうだな」
 と、村上は言った。
 ビルの入口が、おそらく取り壊されているようで、階段も残っていない。
「ここが違うとなると、どうするかな」
 村上は、争った弾みで、宗方を殺してしまった。その責任を問われることはないと思われたが、問題は太田猛の居場所が分らなくなってしまったことだった。
 太田充代の話で、猛がどこかに閉じこめられているかもしれないというので、こうして捜しているのだったが……。
「おい! 誰かいるか!」
 と、村上が大声で呼んでみた。「──誰かいないか!」
 何度かくり返して呼んだが、反応はなかった。
「──仕方ないな」
 と、村上は息をついて、「この状態じゃ、どこにもいないだろう」
「そうだね……」
 と、有里は言った。「宗方が出まかせを言ったのかも……」
「うん。充代から金を引き出すためにな。誰か、宗方の仲間を見付けるしかない。他に誰もいなかったはずがないからな」
「倒産した〈Kビデオ制作〉のスタッフを見付けられたら──」
「そこからたどっていくしかない。時間がかかるけど……」
 村上はため息をついて、「宗方を殺さずにすめば良かったんだが……」
「成り行きだもの。しょうがないよ」
 と、有里が慰める。
「戻ろうか」
「うん」
 有里は村上について、車の方へ戻ろうとしたが、ふと足を止めた。
「──どうかしたのかい?」
 と、村上が振り向く。
「今……ビルのから、何か落ちる音がした」
「落ちる音?」
「コンクリートの破片か何か。でも、下から聞こえて来た、ってことは……」
 村上がうなずいて、
「このビルにはに部屋があるってことだ」
 村上がコンクリート片の重なっているのを押しのけると、いくつかの塊が下に落ちて行き、そこに隙間ができた。
 下は真暗だが、
「おい! 誰かいるか!」
 と、村上が呼びかけると、その声が反響した。
「下はかなり広いぞ」
「そうね。──待って!」
 と、有里は鋭い声で、「何か聞こえる」
 合唱をやっている有里の耳は、音に人一倍敏感だ。
「──僕には聞こえないが」
「何か……息づかいのようなものが聞こえた気がしたの」
 と、有里は言った。「もしかしたら……」
「ライトを持って来よう」
 村上が車へ走って、大きめの懐中電灯を持って来た。そしてその隙間から下を照らしてみた……。

▶#11-3へつづく
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「小説 野性時代」第209号 2021年4月号


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