【連載小説】ついに宗方を追い詰めた村上刑事。響いた発砲音の正体は――。赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」#11-1
赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」

※本記事は連載小説です。
前回のあらすじ
興津山学園に通う天本有里が出会った矢ノ内香は、不思議な火災で父母を亡くし恩師・宮里を頼りに上京したところ、宮里がアパートでAVを撮影しているのを目撃、カバンに切断された指を入れられたという。病気の妻のためAVで稼ぐ宮里と暮らす太田充代は、弟の猛から宗方という男に見込まれ、殺人の罪をかぶって姿を隠す、と言われる。AVの撮影現場から消えた少女・マナを追う村上刑事らは、古い温泉宿で宗方と鉢合わせする。宗方は取り逃がしたが、発見されたマナの腕の跡から、この事件に薬物が絡んでいることが判明する。その後猛を人質に充代を連れ去った宗方の車を、有里と村上はついに追い込む。
14 細い糸(つづき)
そして、
「──村上さん! どうしたの!」
と、有里は駆け寄った。
「すまん……。いや、大丈夫だよ。ただ……震えが止らなくて……」
村上は真青になっていた。
「何があったの? けがしたの?」
「そうじゃない。宗方が拳銃を向けて来たんで、夢中でその手首をつかんで、もみ合った。奴が引金を引いた……」
「それじゃ……」
「銃口が自分に向いてたんだ。宗方の顔の真中に弾丸が当った……」
「じゃ、死んだんだ、宗方」
「ああ。あんなことになるとは……」
宗方を結果的に殺してしまったことが、ショックだったのだろう。
「──弟が」
と、
「そうか。──しかし、もう宗方には訊けない」
「でも……どうしよう……」
充代が途方に暮れたように言った。
「すまない。殺すつもりでは……」
「仕方ないよ。村上さんが撃たれるところだったんだから」
と、有里が力づけるように言った。
「ええ、それは……」
そのとき、有里はケータイの鳴る音に気付いた。
「村上さん、ケータイが鳴ってる」
「ああ……そうか」
村上はポケットからケータイを取り出すと、「──村上です。──ええ、さっきの話で……」
話を聞いている内、村上は真直ぐに背筋が伸びて、自分を取り戻している様子だった。
「分りました。
村上の言葉に力がこもった。
有里はホッとして、村上の手をしっかり握ったのだった。
▶#11-2へつづく
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