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レビュー

作者、よくもこんなことを考えつくものである。残酷きわまりない真実を見届けてほしい。『殺める女神の島』レビュー【評者:細谷正充】

連続殺人が、七人のファイナリストの「秘密」を暴いていく――。
秋吉理香子『殺める女神の島』

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作者、よくもこんなことを考えつくものである。残酷きわまりない真実を見届けてほしい。
評者:細谷正充(書評家)

 ミステリーのサブ・ジャンルに“クローズド・サークルもの”がある。簡単に説明すると、吹雪の山荘や絶海の孤島など、外部との往来が不可能な状況(連絡ができる場合とできない場合がある)で起きる事件(主に殺人)を扱った作品のことを指す。もっとも有名なのは、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』だろう。また近年の日本ミステリーでは、さまざまな工夫を凝らしたクローズド・サークルものが、次々と誕生している。そこに新たな秀作が加わった。秋吉理香子の『殺める女神の島』である。
 モルディブから船で数時間の距離にあるリゾートアイランドに、七人の女性が招かれた。彼女たちは、十五年ぶりに開催されたビューティーコンテスト「ミューズ・オブ・ジャパン」のファイナリストだ。主人公の君嶋美咲は、そのファイナリストの一人である。大学時代にミステリー作家としてデビューしたが、しだいに小説が書けなくなり、今は派遣社員をしている美咲。ビューティーコンテストに優勝したいが、それが叶わなくても今回の体験を使って作家として返り咲こうと考えている。
 その他のファイナリストは、幾つものミスコンで優勝している安藤舞香、現役女子高生モデルの山下姫羅、有名な韓国の化粧品会社を経営している新田ユアン、シェフの深野京子、ヨガインストラクターの二ノ宮まりあ、アメリカ育ちの医師ヒムラ・エレナと多士済々だ。二週間のビューティーキャンプをリゾートアイランドで行うなど、破格の待遇に喜ぶ七人。会話も弾み打ち解けてきた。
 だが、「ミューズ・オブ・ジャパン」の主催者であるクリスが、何者かに襲われたのか、意識不明の状態で発見される。さらに衛星電話も破壊されており、外部と連絡がとれない。リゾートアイランドには七人とクリスしかいないはずだが、美咲は外部の人が犯人だと推理。それにより他のファイナリストも落ち着いた。しかし、ファイナリストの一人が殺され、事態は悪化していくのだった。
 クローズド・サークルものとしてはオーソドックスな展開だが、七人のやり取りで楽しく読める。そしてファイナリストの一人が、密室状態の部屋で死んでいるのが発見されると、一気に物語がスピードアップ。ファイナリストたちは疑心暗鬼に陥り、ギスギスした空気が漂う。かつてイヤミス『暗黒女子』で話題になった作者だけに、このあたりの女性たちの描き方が、実に達者である。また、ファイナリストたちの、隠されていた嘘も、どんどん露わになっていく。こうなるともう、ページを繰る手が止まらない。
 さらに第四章の冒頭で、不可解な事実が提示されると、息を継ぐ暇もなくクライマックスに突入。一連の事件の構図が明らかになるのだが、なんとも禍々しい。作者、よくもこんなことを考えつくものである。
 それに関連して注目したいのが本書のタイトルだ。『殺める女神の島』の“殺める”は“病める”という意味も含んでいるのだろう。ならば、病める女神とは誰だったのか。どうかラストまでたどり着き、残酷きわまりない真実を見届けてほしいのである。

作品紹介・あらすじ
『殺める女神の島』秋吉理香子



殺める女神の島
著者 秋吉理香子
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
発売日:2024年3月4日
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322308001041/

極限状況で繰り広げられる、殺人鬼と美女の心理戦!

リゾートアイランドに集められた、外見と内面の美を競い合うコンテストの最終候補者。メンバーは女子高生モデル、経営者、小説家、医師、シェフ、インフルエンサー、大学院生の七人。これから二週間、互いを知りながら、高め合いながら、助け合いながら、最終審査の準備を行う。その日々を見守ってグランプリを決めるはずだった主催者が、二日目の朝、瀕死の状態で見つかった。次々と殺人が起きるなか、巧妙に隠された参加者たちの「嘘」も明らかになっていく――。

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