大切な人と食べるごはんは特別な味がする。サンドイッチ専門店の癒しの物語
谷 瑞恵『ふれあいサンドイッチ』
レビュー【評者:佐藤日向】
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『ふれあいサンドイッチ』
著者:谷 瑞恵
焦って生きてしまっている大人がほっと一息つける優しい居場所
書評:佐藤日向
心が少し疲れた。ほっと一息をつける場所が欲しい。
そう思った時に「ピクニック・バスケット」を訪れると、今日は美味しいご飯を食べて自分の心を元気にしてあげようと思わせてくれる。
「ピクニック・バスケット」を訪れるのはこれで3回目になる。気づけば常連のような感覚で本のページを捲っている自分がいた。
谷さんの紡ぐ文字たちは読み手に優しく寄り添ってくれて、登場人物たちの温かいだけじゃない人間的な普通の日常をお裾分けしてくれる瞬間がどの作品にも含まれていて、読了後は不思議と優しい気持ちになれる。この感覚は子どもの頃の絵本を読み終えた感覚と似ている。本作も大人が楽しめる絵本のようだった。
作中で繰り広げられる人間関係はとても温かく、優しさで溢れている。
私は仕事柄、人と接することが多い。だが、どうコミュニケーションを取ったらいいのか、相手を不快にさせないためにはどの言葉が適切なのか、そんなことばかりを考えていると話さない方が楽なんじゃないかと思ってしまうことがある。そんな時に私に言葉を交わす勇気をくれるのは本だ。
本からもらう言葉たちの力は常に私に寄り添ってくれて、本が繋いでくれたご縁もある。
学生生活を終えて、社会人になって改めて思うことは、私は人よりもものすごく不器用ということだ。
私にとって本は食事と同じくらい生活の中に必要なものだ。本作を読んでご飯を食べたいと思えるのは、谷さんが作中で食事をとることが何よりも大切だと何度も綴られているからだろう。特に「体は、たぶんわたしたちが自覚するよりずっと、食べたいものを知ってるんです」という笹ちゃんの言葉は私に大きく響いた。
食べ物に限らず、体というものは、今自分に何が必要なのかのサインをはっきりと出してくれる。帰り道にどこかの家からカレーの匂いがしたらカレーが食べたくなったり、フラッと立ち寄った本屋さんで読みたいと思える本があったり、たまたま見た映画の予告が面白そうだから映画館に足を運びたくなったり。日常には"自分のやりたいこと"のサインを見つけるきっかけとなるものが溢れている。
都心で生活をしているとそのサインに注目する時間をとることに疲れて、目の前のやらなければならないタスクばかりを追いかけてしまう。そんな生活を続けていると、だんだんと「昔は本が好きだったけど今はページを捲るのが面倒だな」「とりあえず食べられたらなんでもいいか」と自分のサインに鈍くなってしまって、楽しむ心を忘れてしまう。
『ふれあいサンドイッチ』はそんな焦って生きてしまっている大人がほっと一息つける優しい居場所になっていた。毎日を特別にする必要は全くない。でも、自分が今何を食べたいと思っているか、何をしたいかのサインを見失わずに居続けたい。
なんてことない日常を愛おしく感じられる本作を是非、貴方の日常の一部にしてみてほしい。
作品紹介
ふれあいサンドイッチ
著者 谷 瑞恵
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
大切な人と食べるごはんは特別な味がする。サンドイッチ専門店の癒しの物語
仲の良い姉妹・笹子と蕗子が営む小さなサンドイッチ専門店『ピクニック・バスケット』。
ここには悩みを抱えた人々が、心を癒す絶品サンドイッチを求めてやってくる。
ある日、蕗子はパンダのアップリケが付いた手作りのパスケースが店内に落ちているのを発見した。
密かに想いを寄せるパン職人・川端さんが持っていたものと似ている。
持ち主は誰だろうとやきもきして……。
「思い出のとき修理します」の著者が贈る優しい感動の物語。
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