いかにして“国民的文化”となったのか。アニメ研究の第一人者が徹底解説!
氷川竜介著『日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析』書評
氷川竜介著『日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析歴史の転換点となった変化の構造分析』
書評家・作家・専門家が新刊をご紹介!
本選びにお役立てください。
【評者:樋口真嗣】
この本を書いた氷川竜介さんは、1958年生まれ。私より7歳歳上で、人生の先輩です。
日本にテレビアニメが生まれ、広まり、根づき、そして映画界を席巻するに至りました。アニメの魅力に取り憑かれてきたという点では、氷川さんも私も同じですが、確かな視点と冷静な観察・分析でアニメファンを導いてきた氷川さんと、中毒者のようにひたすら刹那的快楽を本能的に求め続けてきた私との大きな違いは、実はこの7歳の差が生み出したものだと思っています。
「白蛇伝」(日本初のカラー長篇漫画映画)は1958年の公開、「鉄腕アトム」は1963年の放送開始。まさに氷川さんは、アニメの道のりと共に人生を歩んできたのです。
氷川さんの考察からは、日本で私たちがこの特異な娯楽を享受できているのは、決して当然のことではないと分かります。先人が生み出した点が結ばれて線になり、線が集まって面になる――こうして織り上げられた日本のアニメを、1本1本ほぐすように糸口を見つけて考察し、検証していくプロセスは、もはや科学的探究の域に達しています。そしてその考察からは、我々はこの特異な文化をこの国において図らずして享受し得た訳では決してない――宇宙に太陽という恒星が生まれ、それを周回する地球という惑星に生命が誕生し、そこから進化した人類が文明を構築した歴史とほぼ同等の、複数の奇跡の賜物であることが分かるはずです。
「まえがき」で氷川さんは、なぜ日本のアニメが面白いのか、その理由を「世界中で評判だから面白い」などと根拠を外部に求めて本質を見逃すことを危惧しています。
そのような中身の空洞化した画一的なマーケティングやコンサルティングを続けていては、大衆を“狂騒”へ誘うことなど、到底できません。今、日本のアニメ文化にある栄誉は、これまで業界が辿ってきた“進化”の帰結です。そのオリジンを確認し、今ある価値を再定義し、そしてさらなる“進化”へと向かう――、我々はこれを未来永劫続けなければならないのです。
それだけではありません。私たち、「漫画の読み過ぎやテレビアニメの見過ぎは悪いことだ」「大人になったらやめるべきことだ」という価値観を呪いのようにかけられてきた世代にとっては、このことは「漫画やアニメを見続けて何が悪い!」という、自己肯定のための新たな価値観を確立させる闘争でもあり、本著こそその戦いで掲げるべき錦の御旗に他ならないのです!!
……いかんいかん、私がヒートアップしてしまいましたが、氷川さんの考察は常に冷静沈着なものです。
とにかく、日本のアニメに起こった数々の奇跡は、決して一朝一夕のことではないことが、本書を読むとお分かりいただけると思います。読む前と読んだ後では、漠然と「アニメが好きだ」「アニメは面白い」と思っていたあなたの見える景色は、これまで経験したことのないほど、まぶしく
そして本書で試みられたアプローチは、アニメに限ったことではないはずです。みんながそれぞれ抱いている“好きなもの”は、国も時代も関係なく、すべからく好きになるべく誰かが思いを込めて作っているものだからです。
つまるところ、本書は自分の“好き”を再発見し、育てるための指南書でもあるのです。
【評者プロフィール】
樋口真嗣 映画監督
1965年東京生まれ。「ゴジラ」(84年)で造形助手として参加し、映画界へ。平成「ガメラ」3部作で特技監督を務める。特撮だけでなく、「王立宇宙軍 オネアミスの翼」、「ふしぎの海のナディア」、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズなど、アニメ制作にも携わる。主な監督作品に「ローレライ」、「日本沈没」(06年)、「シン・ゴジラ」、「シン・ウルトラマン」、著書に「樋口真嗣特撮野帳」など。
【作品紹介】
『日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析』
いかにして“国民的文化”となったのか。アニメ研究の第一人者が徹底解説!
なぜ大ヒットを連発できるのか。アニメ・特撮研究の第一人者が、日本のアニメ産業に起こった「革新」を徹底解説。「宇宙戦艦ヤマト」から新海誠監督作品まで、アニメの歴史に不可欠な作品を取り上げ、子ども向けの「卒業するべきもの」を脱し、大人も魅了する「国民的文化」となり、世界中にファンを生み出す理由を明らかにする。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321708000023/
amazonページはこちら