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レビュー

この小説は、アイドル史におけるひとつの事件かもしれない。――安部若菜『アイドル失格』書評:大森 望

NMB48の安部若菜が本気で描く、禁断の「アイドル×オタク」恋愛小説!
安部若菜『アイドル失格』

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安部若菜『アイドル失格



▼安部若菜『アイドル失格』特設サイト
https://kadobun.jp/special/abe-wakana/

書評:大森 望

 〝禁断の恋〟がなかなか成立しにくい今の時代にあって、〝アイドルとオタクの恋〟はその数少ない例外のひとつ。運営側が表立って〝恋愛禁止〟を掲げるかどうかはともかく、アイドルがファンと恋愛して周囲に歓迎されることはめったにない。とりわけ、ファンとの〝接触〟を活動の柱のひとつにしている10代20代の女性グループに限れば、最大級の〝禁断の恋〟なのである。とはいえ、ファンとの恋愛が発覚してグループを脱退したアイドルは無数にいる。その意味で、〝ガチ恋勢〟のドルヲタ(アイドルオタク)にとってアイドルとの恋愛は見果てぬ夢であり、生々しい問題でもある。
 この危険すぎるテーマにNMB48の現役アイドルが正面から挑んだのが、安部若菜の『アイドル失格』。帯にはデカデカとこう書かれている。
「アイドル×オタク 禁断の関係――選ぶのは、恋か、夢か」
 アイドル側の主人公は、大手事務所が運営する4人組アイドルグループ「テトラ」でセンターに立つ17歳の実々花。結成から2年あまり、大きなアイドルフェスへの出演も決まって、「テトラ」の人気は順調に上昇している。
 オタク側の主人公は、下北沢のDVDショップでアルバイトする20歳のさえない大学生ケイタ。大学では友だちがつくれず、バイトにも熱が入らない。生き甲斐は「テトラ」の実々花だけ。彼女に〝ガチ恋〟するケイタは、接触イベント(チェキ会など)での数十秒の会話のためにバイト代を注ぎ込んで現場に通っている。
 ここまでは王道の設定だが、じつは実々花の側もケイタが気になっていて、ツイッターをひそかにチェックしている――というところが今風だ。アイドルとファンが現場以外で直接やりとりするのは〝繋がり〟と呼ばれ、大手では御法度。バレるとネットが荒れる最大の原因になる。とはいえ、アイドルも人の子。ファンの中に気になる相手がいればこっそりSNSを見て反応をうかがうこともあるだろう。そのためにつくったアイドルのプラ垢(私用アカウント)がバレて炎上する事件も現実にしばしば起きている。
 実々花はそこから一歩進んで、ケイタが働く店を特定。母親との衝突をきっかけに、半ば衝動的に、彼のバイト先にサプライズ出現する。はたして二人の〝禁断の恋〟の行方は?
 著者自身、かつてはアイドルオタクだったというだけあって、オタク側の心情もドキッとするほど生々しく鮮やかに描かれている。若いドルヲタの男性読者ならケイタの不安が思い切り身につまされるだろうし、実々花の日常や悩みやメンバーとの関係も、当然、リアルすぎるほどリアルに語られる。
 作中では、実々花のパートとケイタのパートを交互に並べ、2022年3月から11月までの約8カ月を追う。アイドルにハマった経験のある読者はもちろんのこと、生身のアイドルに興味がない読者でも、二人の不器用な恋の行方をドキドキしながら見守るスリルが堪能できる。まさに現在進行形のヴィヴィッドな青春ストーリーだ。

 ……と、ここで紹介を終えてもいいのだが、この10年近くドルヲタとして過ごしてきた立場からすると、本書に抱く感慨はもうすこしこじれてくる。なにしろ本書の著者は、アイドル好きの小説家でも、アイドル業界を綿密に取材したライターでもなく、NMB48の現役メンバー、21歳の安部若菜なのである。
 自分の推しにこんな小説を書かれてしまったオタクの気持ちは想像しがたいが、そうでなくても紅白にも出た誰もが知る大手グループに所属する現役アイドルがここまで深くオタクの心情を理解し、アイドルという仕事をこれだけ客観的に見ていることに衝撃を受ける人もいるのではないか。
 アイドルがプラ垢でオタクについて忌憚のない発言をしたのがバレて炎上する事例は珍しくないが、実々花の(安部若菜の)冷静な分析は、そういう毒舌以上に、オタクの心に突き刺さる。アイドルに対する認識が変わるという意味では、この小説は、アイドル史におけるひとつの事件かもしれない。2年の歳月を費やしてこの小説を書き上げた著者の努力と勇気に(やや複雑な思いで)拍手を贈りたい。

作品紹介・あらすじ



アイドル失格
著者 安部 若菜
定価: 1,650円(本体1,500円+税)
発売日:2022年11月18日

NMB48の安部若菜が本気で描く、禁断の「アイドル×オタク」恋愛小説!
僕と彼女は、決して結ばれない運命なのだ-- 選ぶのは、恋か、夢か。

冴えない日々を送る大学生のケイタは、4人組アイドルグループ「テトラ」のセンター・実々花の熱烈なオタク。
叶わないと分かりつつも本気で恋をしていた。
一方、高校3年生の実々花は、グループの人気が順調に上がり、熱心に応援してくれるケイタの好意を嬉しく思いながらも、
将来に漠然とした不安を抱えていた。
ある日、実々花は母親との衝突をきっかけに自暴自棄になり、
SNSの情報を頼りに思わずケイタのバイト先へ向かってしまう――。

NМB48の現役アイドルが本気で描く、切なくも希望に溢れた青春小説

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322109000593/
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